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羽生善治は藤井聡太20歳の将棋をどう見ている? 「棋譜を見れば伝わってきます」「32歳差ですか。だいぶ離れてはいますけど…」
text by
高川武将Takeyuki Takagawa
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/01/08 11:01
王将戦七番勝負で藤井聡太王将に挑戦する羽生善治九段。藤井聡太五冠の将棋をどう見ているのか、本人に聞いた
「もちろんあります。これもコロナが始まってから感じたことなんですけど、毎回、将棋会館で対局するじゃないですか。ネット中継はありますけど、ずっと人のいないところで将棋指して家に帰ってくる生活って……何か、手応えがないなって(笑)」
羽生はそう言うと、おかしくてたまらないといった感じで笑い転げた。あの華やかな舞台へ……。その標的は、5つのタイトルを持つ藤井ということになる。
藤井さんの膨大な研究量は、棋譜を見れば伝わってくる
――改めて藤井将棋をどう見ていますか。
「本当に強いですよ。タイトル戦はスコアでは圧勝していますけど、本人は楽に勝ってるとは全く思っていないでしょう。膨大な時間を研究に費やしているんだろうなというのは、棋譜を見れば伝わってきます」
――藤井さんの将棋も同じようにやってみると話していたと思いますが、どんな感じですか。
以前、羽生は『自分と違う新しい感覚を持った人が出てきたら、まずは同じようにやってみる』と言っていた。そうして、相手の特徴を自分のオリジナルの強さに変えてきたのだ。だから、何気ない問いのつもりだった。ところが羽生は、「ああ……」と唸ってから意外な反応を見せた。
「いや、私、藤井さんと同じ将棋は基本的には指してないです」
――えっ? そうなんですか!?
「ええ。いや、でもそれ、やったらいいかも知れないですね。新しい提案を頂いて」
最初はリップサービスかと思ったが、羽生は真剣に続けるのだ。
言われてみればコロンブスの卵
「今までになかった発想です。完全に。言われてみればコロンブスの卵というか。参考にします。ちょっと考えてみます」