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中邑真輔と引退直前のグレート・ムタが元日に描いた“奇跡のアート”とは?「こんなものを見せられたら…」一夜かぎりの邂逅に抱いた感慨
posted2023/01/05 17:01
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
武藤敬司と中邑真輔が争ったIWGP戦から、14年以上の歳月が過ぎていた。
そこには特別な空間があった。会場を埋めた満員の観衆はライブに酔った。太鼓とバイオリンにはじまったオープニングから、緑の毒霧と「イヤァオ!」のフィナーレまで、2人は観客の心を鷲掴みにしていた。
年の初めにいいものが見られた。逆に「元日からこんなものを見せられてしまったら、後は大変だろうな」と正直思った。
これだけの試合をやるなら、リスクを背負っても他の10試合はやらず、ワンマッチでもよかったのではないか、とさえ思ってしまった。
中邑真輔の“アイドル”だったグレート・ムタ
2023年1月1日、日本武道館で行われた引退間際のグレート・ムタとWWEの中邑真輔(SHINSUKE NAKAMURA)のシングルマッチは「奇跡の実現」とまで言われた。
中邑はバスケットボールやレスリングに打ち込んでいた少年の頃から、ムタというアイドルを見てきた。
「どうしても自分の本物の感情をさらけ出さずにいられない。中高生の頃、グレート・ムタはボクのアイドルでした。大好きでした。その相手と、時代は違えども、肩を並べることができて、そしてリングで対戦できる。言葉では本当に言い表せないけれど、この実現に至る経緯も神がかっている。いまだに震えてます。たぎってます。マジで。感情がたぎりまくっている」
試合前から中邑は「ムタはボクのアイドル」と言い切って、素直なうれしさを顔に表した。本人は感情を抑えようとはしていたようだが、あえてそのウキウキ感まで隠そうとはしなかった。中邑はたぎりにたぎって、そんな心のアイドルとの一夜だけの邂逅を喜んだ。