「スピードのある選手は数多くいるけど、異次元の速さに加え、あれほどのスタミナを併せ持ったセンターフォワードはいままでに見たことがなかった。裏へ飛び出したかと思えば、半端ないスピードで繰り返し、プレスを掛けに行くんですから」

　どのチームでも重用される中盤の汗かき屋を前線でこなす仕事ぶりは、よく知っている。ワールドカップのメンバー選考で古橋亨梧よりも評価され、本大会の先発選びでも浅野拓磨より優先順位が上だったことも理解できた。

「森保一監督だけではなく、チームメイトたちからの評価が高かったんだと思いますよ。あれほど走ってくれる選手はいないから」

　水戸時代、試合中でも、紅白戦でも前田に狙われたディフェンダーたちは警戒しているはずなのに次から次にボールをかっさらわれるシーンを数え切れないほど見てきた。

「そのたびに『大然、速い！』って、思わず声を漏らしていました。いまでも覚えていますね。分かっていても、やられる姿を何度も見てきたから。外から見ているだけでは分からない部分もあるかもしれません。ほんと、想像以上なので。初速でキュンと出て、そのあともグンと伸びるんです。一度体験すると、きっと笑ってしまいますよ」

原付より速い!? スマホに残る衝撃スタッツ

　いつしか、林氏は試合翌日に水戸のクラブハウスに張り出される個人スタッツを見るのが楽しみになっていた。真っ先にチェックしたのは、自分よりも前田のデータ。走行距離は13km以上も珍しくなく、スプリント回数も60回を超えてももはや驚かなくなっていた。それでも、2017年11月のある日は、さすがに度肝を抜かれた。

「最高速度が36.9kmだったんです。えげつないスピードだったので、つい証拠写真を撮ってしまいました。これは、いまでも保存しているんです」

2020年シーズン限りで引退し、現在は東京大学ア式蹴球部の監督を務める林陵平さん。衝撃を受けたスタッツ表の写真は今もスマホに残っている

W杯でも威力を発揮した攻守にわたる前田大然のスプリント　©︎Takuya Kaneko/JMPA

　林氏が手に持つスマートフォンに収められた写真には、確かに時速36.9kmと印字されている。原付スクーターの法定速度（時速30km）よりも速い。さらには陸上の山縣亮太が持つ100mの日本記録9秒95を単純に時速換算した36.2kmも超えてしまうのだ。計測方法などの違いはあるものの、短距離選手並みのスピードを持っていると言っても過言ではない。

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