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現役ドラフト成功のポイントは”ちょっと損した気分?” オコエ瑠偉(楽天→巨人)、陽川尚将(阪神→西武)…「すごく驚いたのが率直な心境」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byJIJI PRESS / Hideki Sugiyama
posted2022/12/11 17:00
12月9日に行われた現役ドラフトで楽天・オコエ瑠偉(左)は巨人へ、阪神・陽川尚将(右)は西武へ
西武のチーム創成期には監督を務めながら阪神の田淵幸一捕手と真弓明信外野手を中心にした大型トレードをまとめ、中日・星野仙一監督との人脈を通じて杉本正投手と大石友好捕手を出して中日のバリバリの主力選手だった田尾安志外野手を、また小野和正投手を出して平野謙外野手を獲得と主チームの主力同士のトレードを成立させた。
またダイエーの球団創成期もチーム編成の責任者として大胆な補強を敢行。旧南海時代の主力選手だった佐々木誠外野手を交換要員に古巣・西武の秋山幸二外野手に狙いを定めた3対3の大型トレードを実現させている。ちなみにこのときは当時の球団オーナーだったダイエー・中内功社長もトレードを知らされておらず、ダイエー本社の社員食堂で流れていたNHKのニュースでトレードの一報を知り驚愕したというエピソードも残されている。それほどの隠密行動でなければ、チームの主力同士の交換トレードなどなかなか成立させることはできないということだ。
「お互いが損した気分で選手を出せば、お互いが得する」
そんな辣腕・根本さんを西武時代に取材したことがある。
当時は池袋のサンシャイン60内に球団事務所があり、時間のあるときには担当記者を引き連れて同じビル内の蕎麦屋でランチするのが根本さんのルーティンだった。そこで話すのは大好きだったゴルフの話がほとんどだったが、ときに野球の話、編成の話をしてくれる。
そこで聞いたのが前述の言葉だった。
「みんな自分が得する前に、自分が損をしないことばかりを考える。トレードもそう。この選手を出して活躍したらどうしようと、そんなことばかり考えるから、なかなかいいトレードなんて成立せんのよ。トレードってのは選手を生かすためにやるものだろ。だからお互いがちょっとだけ損した気分になることが大事なんだ。お互いが損した気分で選手を出せば、お互いが得するトレードになる」
当時はもちろん現役ドラフトなどという制度はなく、そもそも埋もれている選手を他球団で、という発想もあまりなかった。ただその中で根本さんはチームの補強はもちろんだが、選手を生かすにはどうしたらいいかを考えながら、いくつもトレードを画策していたのである。