濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
安納サオリは「可愛いだけじゃない。強いから」“アイドルになれなかった”人気女子プロレスラーがタイトルマッチで見せたプライド
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2022/11/29 11:02
11月5日、アイスリボンのシングル王座3度目の防衛に成功し、笑顔でポーズを決めた安納サオリ
毎試合のテーマは「初めて見た観客を一目惚れさせる」
アイスリボンは昨年末からトップ選手たちが何人も退団、引退しており現在はキャリアの浅い選手を中心に立て直しの時期。団体を盛り上げるためには、新世代がベルト奪還に動き、話題の中心になって存在感を示す必要がある。フリーの自分がベルトを巻いているのが面白くない選手もいるはずだと安納も感じていた。
「(アイスリボン所属選手)全員とタイトルマッチしたいです。ベルトに絡むこと、安納サオリと闘うことがおいしいと思ってもらえたらいい。そこに価値があると。その価値のあるチャンピオンにならなきゃいけないですし」
安納もアイスリボンが盛り上がるのは大歓迎。といって所属選手を引き立てる“相手役”になるつもりはなかった。どの団体でも、どんなカードでも「安納の試合が一番よかった」と言わせるつもりでやっている。毎回、初めて見た観客を一目惚れさせるのがテーマでもある。
アイスリボンでは“外敵”なのかもしれないけれど、誰よりも自分の力で盛り上げたい。自分が勝って、目立って、バリューを上げて、その結果としてアイスリボンの会場を満員にするのがベストだと考えている。その一方、人気フリー選手だけにアイスリボン全戦出場というわけにはいかない。OZやセンダイガールズにも定期参戦しており、スケジュールが重なった場合はあくまで先約優先だ。タイトルマッチに向けた石川との前哨戦もできなかった。
アイドルになりたかった自分、なれなかった自分
フリーになる前、アクトレスガールズの初代チャンピオンだった頃はやることがはっきりしていた。最優先だったのは「団体を大きくしたい」という気持ち。それは自分が頑張ることと、限りなくイコールに近かった。
「でも今は考えることが多いんですよ、メチャクチャ。アイスリボンは大好きだけど、自分は所属じゃない。盛り上げたいけど安納サオリという個人のブランドも高めたい。それは同じことなのかもしれないけど。アイスリボン以外の団体のこともあるし、活動全体についてもっともっと考えなくちゃいけない」
フリーとしてベルトを巻いたのはICE×∞が初めてだ。何もかもが未経験のことで、だから確信をもって動けているわけではない。
「自己プロデュースっていうんですかね。見た目も中身も立ち居振る舞いも、自分がどういうレスラーなのか、まだ分からないところがあります。客観視できてないのかな」
まだ“チャンピオンとしての安納サオリ”のイメージは確立されていない。そういう時に石川戦が決まった。前哨戦から盛り上げることはできなかったが、シチュエーションに感じるところがあった。試合前にライブを見ていて、アイドルになりたかった自分、なれなかった自分を意識した。アイドルへの想いを自分なりに形にした石川の頑張りも伝わってきた。会場にいるアイドルファンたちも視界に入った。それこそ一目惚れさせてやる、と。