得意技のジャーマン・スープレックスでトドメを刺した

　子供の頃はモーニング娘。になりたかった自分が、今はアイドルライブとのコラボイベントでプロレスのタイトルマッチをやっている。まさかこういう人生になるとは思わなかった。けれどプロレスラーである自分、そのプライドも強く感じた。

　“絶対不屈彼女”が安納のキャッチフレーズだ。相手の技を受け、苦痛に顔を歪めながら何度も立ち上がる。そんな姿も魅力になっている。その個性が石川戦でも出た。安納が耐えれば耐えるほど石川の攻めも激しくなる。その上で安納が反撃して、石川の頑張りも引き出された。ハイライトはお互いの得意技であるジャーマン・スープレックスの攻防。この試合は石川のベストバウトと言ってよかった。誰もがこれでフィニッシュだと思ったジャーマンを、カウント2で返す。それでも安納は慌てず騒がず、もう一発ジャーマンを決めてトドメを刺した。

　石川は大会の“主役”としての役目を十分に果たした。そうさせたチャンピオン・安納の度量のようなものも感じる試合だった。

「いつもの私は、どこで試合しようが自分が主役だと思ってるんですよ。でも今日の主役は石川でしたね。そういう状況で勝ってベルトを守るというのも、またいいのかなと。相手が石川じゃなかったら、今日みたいな試合はできなかったかもしれない」

可愛さも強さも誇れるレスラーになった

　試合後、マイクを持った安納は「アイドルファンのみなさん、はじめまして！」。石川にはこう語りかけた。

「世の中、可愛い人たくさんいるよな。うちらも可愛いよ。でも可愛いだけじゃない。強いから」

　見た目なんか関係ないとは言わないのが安納なのだった。アイドルに憧れて、女優を目指して上京して、結果プロレスラーとして可愛さも強さも誇れるようになった。

　12月3日には、故郷の滋賀（長浜市民体育館）で凱旋大会を行なう。タイトルを防衛したことで、地元にチャンピオンとして帰ることができる。こちらはプロレスとダンスのコラボイベント。運営側として、大会前はかなり忙しくなりそうだ。地元ではいつもとは違う一面が見られるかもしれない。けれど本人はあくまで普段通りの自分を見せたいという。

「普段の安納サオリを地元で見せることに意味があるので。滋賀県出身のプロレスラーがいるんだよっていうのを知ってもらいたいです」

　自分がどういうレスラーなのか、まだ分からないところはある。これからどんなレスラーになるか、目指す姿はあるがどうなるか分からない。これまで経験したことより、これから経験することのほうが多いかもしれない。ただ東京だろうが大阪だろうが故郷だろうが、堂々と“安納サオリ”を見せることはできるのだ。そして様々な場所でたくさんの人に見られることで、安納サオリはさらに磨かれ、確立していく。

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