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近江・山田陽翔「まさかの5位指名」はナゼ? 西武編成が明かす“急転直下の舞台裏“…「あの試合を見るまでは“打者評価“でした」
text by
田中仰Aogu Tanaka
photograph byJIJI PRESS
posted2022/11/14 11:01
西武から5位指名された近江高校の山田陽翔
後藤が山田の評価を一変させた試合は、高校3年時の春の近畿大会準決勝だった。対戦相手はセンバツ決勝で1-18で敗れた大阪桐蔭。山田は太ももが痙攣して途中降板したものの、6回途中1失点で完璧に抑えた。
「投球内容が圧倒的だったんですね。球の精度、打者によっての力の出し抜き、間のとり方……あの桐蔭打線が翻弄されていたのがわかりました。降板せずにあのまま投げていれば、連勝記録(試合前時点で28連勝中)は近江が止めていたと思います。コンディションが整えばこんなピッチングができるんだ、と。あの日を境に、この子は投手だなと確信したんです」
後藤自身、鯖江高(福井)時代は捕手で、その後進んだ社会人野球の新日本製鐵堺でも内野手だった。投手に転向したのは、その後移籍した大和銀行でのこと。2000年にドラフト7位で 西武に入団し、プロ4年目に2桁勝利を挙げるなど先発投手として活躍した。自身の経験からも投手、野手両方の能力を見極める目を持っているが、山田に関してはこの大阪桐蔭との試合以降、「投手」としての魅力に取り憑かれていったという。
「150km超えの球速で抑え込むような派手さはありませんが、とにかくクレバーなんですよね。真っ直ぐが走っていない時は変化球で組み立てられる。ヒットを打たれてピンチの場面でも慌てない。5点差があれば無理に完封する必要はない、と試合状況によって冷静に考えられる。そうしたメンタル面がプロの世界で一番大切だと思うので」
「息子が山田君と……」担当スカウトとの温かい縁
プロ野球の世界では、主役に君臨した甲子園の実績は過去のものとなり、横一線でのスタートになる。後藤も「先発とリリーフ、どちらもできると思います。試合を作れるので、先発も面白い。チャレンジしてほしい」とエールを送る。
偶然ながら、個人的な縁も深かった。後藤の次男は、兵庫県代表として今夏の甲子園に出場した社高校の主将をつとめた後藤剣士朗二塁手。昨秋の近畿大会では、その社と近江が対戦しており、「父」の立場で観戦していた。
「近畿大会で近江との対戦が決まった後、『山田君が投げないらしい』との情報があったんです。ならば息子の高校も勝てるチャンスあるぞ、と思ったのですが、そこはしっかり負けました(笑)。近江、強かったです。息子は夏の甲子園開会式で山田君と少し話したそうで、『山田は僕ら世代のスターだ』って誇らしげに言っていました。私もこの3年間、彼のスター性に魅せられた一人。息子世代ですし、親代わりと言いますか、できる限りサポートしたいですね。優しい目線で見てしまうところもありますが、もちろんそこはプロとプロの関係として」
ドラフト指名時、現時点の評価を冷静に受け止めるように表情を崩さなかった18歳。地元、恩師、球団の期待を一身に受け、高く飛翔する。
(文中敬称略)
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