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近江・山田陽翔「まさかの5位指名」はナゼ? 西武編成が明かす“急転直下の舞台裏“…「あの試合を見るまでは“打者評価“でした」
text by
田中仰Aogu Tanaka
photograph byJIJI PRESS
posted2022/11/14 11:01
西武から5位指名された近江高校の山田陽翔
「まずはストレートの質、スピードでしょうね。ほかにも変化球の精度を高めたり、新たな球種を覚えたり……技術的にも、いくらでも高められる。ヒョロヒョロだった今井(達也/2016年ドラフト1位)と違って、身体はしっかりしている。空振りをとれる変化球も持っているし、真っ直ぐを磨けば早いうちから一軍に出てくるんじゃないかな。もちろん、現場スタッフの判断になりますが。山田本人が認めているように、身長や球速がずば抜けているわけではない。ただうちは“違う面”で彼を高く評価しています」
現役時代に同僚だった松坂大輔(1998年ドラフト1位)をはじめ、潮崎はこれまで高橋光成(2014年ドラフト1位)、今井など、多くの超高校級ピッチャーを見てきた。プロでも実績を残す彼らの高3時と比べても“長けている”点とは。
「高校生だったらなんとなく練習していても結果を出せる子はいます。一方で山田は、練習ひとつとっても、なぜその練習をしているのかを説明できる。自分の感覚や課題を言語化して、そこに向けて取り組める。そんな高校3年生、珍しいですよ。
5位で指名されたときは悔しかったと思うんですよね。でも本人は『さらに練習に気合が入りました』と言っていた。彼のメンタルを見ても、個人的にはリリーフ向きかなと。気迫を前面に出すんだけど、ヒットを打たれても冷静でいられるところなんて、リリーフに必要な要素ですからね」
野手から投手へ。評価が一変したあの試合とは
では、山田を追ってきたスカウトはドラフト会議をどんな心境で見つめたのか。担当した球団本部編成グループ育成アマチュア担当(近畿・中国地区)の後藤光貴は、山田の5位指名を「ラッキーだった」と語りながら、順位についてはさほど驚かなかったと言う。
「5位で指名できてうちはツイていたとは思いますが、まあ毎年あることですからね。あの選手がこの順位なんだ、というのは。各球団の補強ポイントに沿って優先順位がありますし」
後藤が初めて山田の名前を知ったのは、2020年6月、近江の土田龍空(2020年ドラフトで中日が3位指名)の視察時。コロナ禍の影響で入学が遅れた代の中に、多賀監督が「すごい1年生が入ってきた」とホクホク顔でその名を挙げたのが山田だった。
「第一印象はセンス抜群の『野球小僧』。候補リストに上がったのは、山田君の高校2年夏の甲子園、あの大阪桐蔭戦です」
昨夏の甲子園、2回戦で山田は優勝候補・大阪桐蔭戦に先発し、6回を被安打4、奪三振7と好投。競った展開の4回から3イニングをノーヒットに抑え、チームの逆転勝ちを大きく呼び寄せた。「大阪桐蔭の3年生を相手にしても、1対1の勝負を楽しんでいるように見えた」(後藤)。それでもこの時点では、野手として評価していたと言う。
「身体の強さから、打者として伸びるんじゃないかと思っていました。あの試合を見るまでは……」