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〈藤井竜王に先勝〉広瀬章人八段が「大きな自信になりました」と語った日…羽生善治48歳、藤井聡太17歳との“アウェイでの勝利”とは
posted2022/10/12 17:02
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
JIJI PRESS
第35期竜王戦七番勝負の第1局は、東京都渋谷区「セルリアンタワー能楽堂」で10月7日、8日に行われた。藤井竜王と広瀬八段は、前日の記者会見で次のように語った。
藤井「広瀬さんの将棋は終盤が強く、それに至る中盤の組み立てのうまさが印象に残っています。見ている皆さまに楽しんでもらえるような将棋を指したい」
広瀬「藤井さんの将棋は、分析すればするほど、私の方が分が悪いことが分かりました(苦笑)。タイトル戦では無敗ですが、いつかは負けるでしょうから、その相手が自分になればいいと思っています。第7局までいくスコアに持っていきたい」
広瀬は自虐的に語りながら、遠回しに勝利宣言をした。
「羽生タイトル100期」がかかった4年前の竜王戦で
2018年の第31期竜王戦で、広瀬八段は羽生善治竜王(当時48歳)への挑戦者になった。第1局は今期と同じ渋谷区のホテルで行われた。その前夜祭はコロナ禍の2年前だったので、棋士や関係者、将棋ファンなど、多くの人たちが会場に詰めかけた。
主催者や対局者が挨拶した後の歓談の場では、主に「観る将」と呼ばれる若い女性たちが、羽生との記念写真や会話を求めて行列ができた。一方の広瀬は関係者や棋士仲間と話していたが、羽生に比べると、ぽつんとした感じだった。
羽生が竜王戦で防衛すれば、通算のタイトル獲得が大台の100期に達する。メディアや将棋ファンが羽生に大注目したのは当然のことといえる。第2局以降の対局場でも同じ状況だったという。つまり、広瀬は「アウェイ」のような立場に置かれていたのだ。
なお、主催者の配慮によってシリーズの途中からは、前夜祭では羽生、広瀬、数人の将棋ファンと一緒に記念写真を撮る光景が繰り返された。
「鷹揚」と書いた色紙に込めたもの
羽生-広瀬の竜王戦は、羽生が先に2連勝した。第3局と第4局も優勢になったが、いずれも逆転負けした。そして、3勝3敗で迎えた第7局は、宮本武蔵と佐々木小次郎が決闘した「巌流島」にほど近い、山口県下関市の旅館で行われた。
第7局も激闘が繰り広げられ、終盤で羽生の疑問手によって広瀬が優勢となり、落ち着いた指し回しで勝った。
広瀬新竜王は「羽生さんから初めてタイトルを取り(2011年と15年の王位戦で敗退した)、大きな自信になりました」と喜びを語った。