「エメは、意外にもホテルの部屋では大人しくて、よく母国の母親に電話していた。俺と話すときも穏やかな感じで、特に破天荒なイメージはなかった。オフトとしては、俺をエメの監視役に据えてチームに馴染ませたかったんだろうと思う」

「福さん、俺、なんで試合にも出られないのに…」

　一方で、福田は当時の長谷部について、負けず嫌いで頑固な性格だと感じたという。

「毎回チームには同行するのにベンチへ入れず、いつも試合会場のスタンドでピッチ上のプレーを観ていた。あるとき、長谷部が俺にこう言ったんだ。『福さん、俺、なんで試合にも出られないのに毎回チームに帯同しなきゃならないんですか？　こんなんだったら浦和に残って自主練習していた方がよっぽどマシですよ。俺、オフトによく思われていないんですかね？』」

　高卒の新人が時の指揮官について愚痴をこぼす姿を見て、福田は『コイツ、気が強いな』と思ったという。ただし福田自身も、当時は長谷部のプレーをじっくりと観察したことがなかったため、そっけない返事をしていたという。

「プロサッカーの世界は入れ替わりが激しい。毎年、毎年、新たな選手が入ってくるけども、その中で試合に出場して実績を築ける選手はほんの一握りだった。そもそも当時の自分は30代半ばに達していて、高卒の新人とはかなり年齢が離れていたから、1年間ほとんど会話せずに、その選手がクラブを去ることなんて頻繁にあった。冷たい言い方になるかもしれないけども、自分は当時の長谷部もその中の1人だと認識していた」

長谷部に印象深い監督を問うてみたところ……

　ちなみに現在の長谷部に『印象深い監督、または自身の成長を促してくれた監督は？』と問うと、フェリックス・マガト（ヴォルフスブルク）、岡田武史（日本代表）、アルベルト・ザッケローニ（日本代表）、ニコ・コバチ（フランクフルト）らの名前は挙がったが、オフトの名前は口にしなかった。そこで、こちらからあえてオフトのことを聞くと、「うーん、どうなんでしょうね」とつれない返答だった。

　おそらくオフトは、長谷部に対して当時の自身の本心を理解してほしいとは思っていないだろう。それでも、新人記者の身分で2000年代初頭の浦和を取材し、後に時の監督、そして本人、チームメイトを含めた多くの選手などから話を見聞きしてきた側からすると、オフトがいなければ現在の長谷部誠が存在しているとは思えない。

　そんな長谷部は、ようやくオフトから与えられた千載一遇のチャンス、プロ2年目を迎えた2003年2月の鹿児島で致命的な過ちを犯してしまう。  ＜つづく＞

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長谷部誠38歳「僕から監督に信頼の念を送る。その結果…」ブンデス16年目でも“スーパーサブ・リベロ”でいられる心の成熟

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