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〈神回ドラフト〉「外れ1位だといわれましたよ」「ロッテが佐々岡を指名するかも」“野茂英雄に8球団競合”の裏にあった駆け引き
posted2022/10/21 06:00
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph by
JIJI PRESS
1989年のドラフト会議で、野茂英雄は8球団から1位の指名を受けた。8つの球団の重複指名はドラフト史上の最多記録だった。抽選の末、近鉄に入団した野茂は、最多勝、最優秀防御率をはじめ、リリーフを除く投手のタイトルすべてを独占し、期待を超える活躍を見せた。8球団重複は根拠のない人気ではなかったのだ。
特定の選手に指名が集中する年は俗に「不作」などといわれる。だが、この年に限ってはそうした常識は通用しなかった。この年、1位で指名された投手は野茂を含めて9人いた。その全員が1年目から一軍のマウンドに立ち、めざましい成績をあげた。二ケタ勝利が4人、二ケタセーブが2人。1勝もできなかったのはひとりだけで、8人合わせて70勝61セーブという驚くべき数字を残した。もしこの年のドラフト1位投手だけで投手陣を編成したら、そのチームは優勝争いをくりひろげたに違いない。
だが、野茂を除けば、ほかの選手たちの事前の評価はさほど高いとはいえなかった。
「ずば抜けた1位候補が例年に比べて少なく、野茂への一極集中は予想通り」
ドラフト翌日の新聞には、そんな記事が載った。だからシーズンを終わっての大豊作ぶりは予想を覆すものだったのだ。その後、「逸材ぞろい」「豊作」などといわれる年も何度かあったが、'89年組を超えるような活躍を、最初の年から見せた組はいない。
外れ1位の指名順が先のロッテなどが佐々岡を指名する?
ビンテージイヤーのドラフト当日を、佐々岡真司は緊張しながら迎えていた。NTT中国に籍を置く島根出身の佐々岡を一番熱心に誘ってくれたのは地元の広島だった。
「でも広島はボクなら外れ1位でも獲れそうなので、まず野茂を指名してダメだったらボクという考えだと前日まで聞かされていました。ところが外れ1位の指名順が先のロッテなどがボクを指名するかもしれないという噂が聞こえてきた。いや、外れではなく単独1位かもしれないとか」