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フィギュアルール改正で選手への影響は…日本人ジャッジが解説する「なぜ変更が必要なのか?」年齢制限の懸念は“年の差パートナー問題”
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2022/10/02 17:00
ISU総会で決議されたルール改正。新基準の年齢制限は、シングルだけでなく、ペアなどにも影響を与える可能性があるという
「驚異の15歳」は出なくなる?注目の年齢制限
もう一つの大きなルール改正は、シニアで競う年齢制限が引き上げられたことである。
これまでは新シーズンの前の7月1日までに15歳になっていることが、シニア国際競技に出場する条件だった。今回の改正により、それが最終的には17歳以上に変わる。
若い選手の怪我防止などを理由に、年齢制限の引き上げの必要性はこれまで何度か取り上げられたが、ISU総会で否決されてきた。それが今回あっさりと決議されたのは、2022年北京オリンピックで起きたロシアのカミラ・ワリエワのドーピング陽性事件が原因だった。当時15歳の彼女が12月のロシア選手権で提出した検体に陽性判定が出たことが、オリンピック開始後に判明。だがWADAの年齢規定によると、17歳以下はまだ要保護者扱いで厳罰の対象外という矛盾が生じたことが、大きく問題視された。
もっともこの引き上げは、今季からすぐに実行されるわけではない。
「今シーズンは15歳、来シーズンは16歳、その次のシーズンは17歳と、次のオリンピックまでに段階を踏んで上げられていきます」
今季からシニアにあがった世界ジュニアチャンピオン、アメリカのイザボー・レヴィットはちょうど15歳だ。これまでアリーナ・ザギトワ、カミラ・ワリエワなど「驚異の15歳」が、順繰りにシニアに上がってメダルを獲得してきた。だがメダルの有力候補としてジュニアからシニアに上がる15歳は、今季のレヴィットが最後になる。
年齢制限の懸念「ペアの年の差パートナー問題」
この年齢制限の一つの懸念は、ペアであると岡部さんは語る。
「アイスダンスよりも、ペアの方がパートナーの入れ替わりが激しい傾向があります。経験ある男子が新しいパートナーに年下の女子を選ぶケースも多く、その場合は男子はすでにジュニアで競う年齢制限を過ぎているのに、パートナーはシニアの年齢に達していないこともある。そうなるとその組は、何シーズンか、ジュニアでもシニアでも試合に出ることができないという事態が起きます。これは今後、考えていかなくてはならない課題です」
4種目の中でペアは最も競技人口が少なく、負傷も多い分、パートナーの入れ替わりも激しい。日本の三浦璃来&木原龍一ペアの場合、二人の間に9歳半の年齢差があるが、これはペアではそれほど珍しい例ではない。
岡部さんが指摘するように、例えば男子が21歳、女子が14歳というジュニア出場ペアの場合は、翌シーズンから年下の女子選手が17歳に達するまでシニア、ジュニアどちらの国際大会にも出場することができなくなる。だが国際舞台で戦うことは、選手の強化活動の上でとても重要なことだ。
この年齢制限ルールが、将来的にどの程度ペアに影響を与えることになるのか、ISUはモニターしていく必要があるだろう。
もうすぐGPシリーズが開幕し、フィギュアシーズンが本格的に始まる。これらのルール改正を頭に入れて試合の展開を見守っていきたい。
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