テニスPRESSBACK NUMBER
「最後の舞台にふさわしい敗北だった」フェデラーはなぜレーバー・カップを引退試合に選んだ?「僕は幽霊になるわけじゃない(笑)」
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2022/09/27 17:01
引退試合後には涙を見せたフェデラー。ファンの想像を上回る感動的なラストシーンとなった
僕は幽霊になるわけじゃないからね
「昨日は眠れなかったよ。感情が沸き上がってしまって。だって僕はロジャーがいたからテニスプレーヤーになったんだ。子供のとき、ローマで彼が試合をするセンターコートにチケットを持たずに潜り込もうとした。そのロジャーが昨日のセレモニーでは僕の肩の上で泣いたんだ。信じられる? ロジャー・フェデラーだよ。そして今日の試合では僕にアドバイスをくれた。無駄にするものかとがんばったよ。ロジャー、ありがとう!」
フェデラーが目指したものは、3日間の光景のそこかしこにちりばめられている。そして、それはここで幕を下ろすわけではない。レーバー・カップではいずれキャプテンをしたいとも言っている。フェデラーへの賛辞が飛び交ったこの数日間だったが、フェデラーはこう言って笑っていた。
「僕は幽霊になるわけじゃないからね。またみんなに会いに来る。それがどういうかたちになるか、もう少し時間をかけて考えていかなくちゃいけないけれど」
グランドスラム・タイトルの数でナダルに抜かれ、ノバク・ジョコビッチに抜かれても、フェデラーは多くのファンの記憶の中に史上最高の選手として存在してきた。テニスの<完成形>と称えられたフェデラーのプレーを見るとき、スポーツマンシップにあふれた言葉を聞くとき、気品と親しみやすさを兼ね備えた振る舞いを目にするとき、ウィンブルドン近くの小さな教会に立つ札に書かれた言葉をいつも思い出したものだ。
神がロジャー・フェデラーをお造りになった——。
このフレーズがちっとも大げさでない。そんな選手がまた現れるのだろうか。やはりフェデラー・ロスから抜け出すにはまだ相当の時間がかかりそうだ。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。