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「お前タフだな、気に入ったよ」朝倉未来の覚悟に、メイウェザーが感じた“誇らしさ”…KO決着直後、リングで2人が交わした言葉 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byRIZIN FF Susumu Nagao

posted2022/09/26 11:07

「お前タフだな、気に入ったよ」朝倉未来の覚悟に、メイウェザーが感じた“誇らしさ”…KO決着直後、リングで2人が交わした言葉<Number Web> photograph by RIZIN FF Susumu Nagao

9月25日、超RIZINのメインとなるエキシビションにて対戦したフロイド・メイウェザーと朝倉未来

「自分は引退してるんだ」と何度も言った

 現在、練習は週に2、3回。「12ラウンズの世界タイトルマッチのためにするような練習はしてないけど、コンディションはいいんだ」。こうした言葉から筆者が感じたのは、彼がボクシングの公式試合をどこまでも真剣で、厳粛で、崇高なものだと捉えているということだ。そこで闘ったパッキャオは危険な相手だった。だからエキシビションでもやらない。今やっているエキシビションと、過去にやってきた試合とは完全に別物。リングに上がる直前にバンデージを巻こうが、ウェイト・リミットがなかろうが関係ない。これはかつて全身全霊をかけて打ち込んだ“本物のボクシング”ではないのだ。エキシビションをナメているというより、ボクシング公式戦にだけ本気と言えばいいだろうか。「自分は引退してるんだ」と、メイウェザーは何度も言った。

 そしてエンターテインメントでも、あるいはだからこそ、公開練習や記者会見は面倒がらずにやる。那須川戦後、RIZINとのコミュニケーションを重ねて信頼関係も高まっていた。会見では、司会者が時間の都合で質問を打ち切ろうとすると「最後の1人まで質問してもらっていいよ」と言っていた。エキシビション後のインタビュースペースでも、自分から「何か質問は?」と取材陣にうながした。メディアの人間の前に出ると、毎回「みんなが記事やSNSで伝えてくれるおかげだ」と感謝を述べてもいた。

朝倉が病院に行く前に明かした「異次元でした」

 一方、記録に残らない痛烈な“負け”を喫した朝倉は頭の痛みから病院に向かう前に「やってよかった」とコメントしている。

「メイウェザー選手のレベルはすべてが異次元でした。普通ではできない体験でした。MMAの選手として成長できたと思います。ボクシングテクニックが向上して、これでオープンフィンガーグローブだったらもっとパンチが速くなる。メイウェザー選手とここまでできたのも自信になりました。(これでもう)MMAの選手には負けないよと」

 そんな朝倉は、メイウェザーの顔面だけでなく心の琴線に触れることにも成功したようだ。前日まで「名前も知らない」と言っていた相手の印象について、メイウェザーは言った。

「誇りに思うよ。彼のおかげで盛り上がったからね。闘いにくる覚悟を感じたよ。どんな選手も1ラウンドは強いんだ。でも彼は一発もらってからもファイトしにきた」

試合直後、メイウェザーが朝倉に掛けた言葉

 朝倉のボクサーとしての才能について聞かれると「今30歳だから、これからの可能性というのは低い。早くからボクシングをやっていたら違っただろうけど、彼が選んだのはMMAだから」。分かりやすい“ベタ褒め”をしないあたりも、ボクシングへのプライドと愛着ゆえではないか。エキシビションを終えたあとでは、朝倉未来はメイウェザーにとって真剣に向き合う対象になっていたのだとも言える。

 メイウェザーはリング上で朝倉に駆け寄り、言葉をかけていた。立ち会っていた通訳に、どんな内容だったのかを聞いてみた。

「お前タフだな、気に入ったよ。自信をもってやってたよな。それが大事なことなんだ」

 メイウェザーはそう言っていたという。“合法的な銀行強盗”はナメていてふざけていて、でも圧倒的に強く、そしてどうやら悪党ではなかったようだ。

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