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羽生結弦が「24時間テレビ」で北京五輪のショートプログラムを演じ切った意味「氷に嫌われちゃったなって…」あの“心の傷”を乗り越えて
posted2022/08/28 20:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto/JMPA
滑り終えた後、真上に掲げた右拳のガッツポーズを解き放つように振り下ろした。
8月27日、羽生結弦は『24時間テレビ45』(日本テレビ系)の特別企画に出演。2018年の西日本豪雨で被災し、現在も仮設住宅で暮らす高校生を招待しての「スペシャルアイスショー」を、自身の拠点であるアイスリンク仙台で行った。そこで披露したのは2021-2022シーズンのショートプログラム『序奏とロンド・カプリチオーソ』だった。このプログラムを数多くあるプログラムの中から選んだことには、格別の重さがあった。
暗い中、スポットライトがリンク中央を照らし、プログラムはスタートする。
3つあるジャンプの中で最初のジャンプ、4回転サルコウを決めると、4回転と3回転トウループのコンビネーションジャンプ、最後のトリプルアクセルも成功。パーフェクトに滑り終えた。
「オリンピックでミスしてしまったある意味、心の傷っていうか。だからこそ自分はまたあらためて挑戦したいなと思いました」
プログラムを選んだ理由をそう明かした羽生。その言葉は、北京五輪の思いがけないアクシデントが、あれ以来、大きくのしかかっていたことを示していた。
初めて披露する場となったのは昨年12月の全日本選手権。
「自分の中で羽生結弦っぽい表現、羽生結弦でしかできない表現のあるショートプログラムがどんなものがあるのかなと思ってずっと探していました」
その末に選んだ一曲のピアノの一音一音を捉えきる演技を披露し、プログラムの世界を体現してみせた。
それでも羽生にとっては完成形でないことを試合のあとに示唆していた。