監督に就く際、永田は当時の経営者から「君は3年で交代してくれ」と告げられている。言わばつなぎの監督だった。そこで永田はドラスティックな改革を施す。それまでのレギュラー中心の練習内容を改め、部員全員に同じ練習をさせたのだ。原点は「思い出したくない」高校時代にあった。

「僕らの頃は学年が進むにつれ、練習ができるメンバーとそうでないメンバーに分けられていきました。僕は何の役にも立てない“迷選手”でしたけど、幸いなんとかレギュラーにくっついて、いい思いをさせてもらいました。でも、いい思いをしていないチームメートもたくさんいたんです」

　名門校がスタイルを変えれば、自然と反発も大きくなる。周りからは「そんなやり方で勝てるわけがないやろ」という声も聞こえてきた。だが、永田は「自分にも意地があった」と頑として信念を曲げなかった。

　早々に甲子園という結果を残したことで、3年の予定だった任期は延びに延び、23年の長期政権になった。2002年には母校をセンバツ優勝へと導き、永田は名将と呼ばれるようになる。その旗印が「全員野球」だった。

「たかが野球がうまいだけで、すべてが決まるわけじゃありません。うまい生徒も下手な生徒も、全員自分の生徒なんです」

　すべての高校球児を肯定したい。永田の言葉からは、そんな思いが汲み取れた。もちろん、その中には高校時代の永田自身も含まれているのだろう。

　永田は今も悪夢にうなされるという。登場するのは、決まって高校時代の自分だ。

「失敗をして誰かに責められている、『えらいことやってもうた』と青ざめている夢です。飛び込んでいい打球なのに大事に捕りにいったり、バットを振るべき場面で振れなかったり、バントを決められなかったり。高校時代はそんな失敗ばかりでした」

　そして、永田はこう続ける。「そんな思いを今の生徒にはさせたくないんです」。

「それはやはり『逆転の報徳』だと思います」

　2017年春で報徳学園の監督を退任した永田は、2020年から静岡の日大三島の監督に就任した。今春のセンバツ出場に導くなど、いきなり結果を残している。だが、58歳になった今も「担任のクラスを受け持って、週18時間の授業をしています」と教員としてのプライドを口にする。

　報徳学園出身の指導者と言えば、永田の他にも大阪桐蔭の西谷浩一がいる。永田にとっては6学年後輩で、教育実習時代の教え子でもある。「苦労して、努力した生徒」と思い入れがあり、指導者としても「言葉の力をうまく使っている」と敬意を持っている。だが、エリートを鍛え上げる西谷と、「全員野球」を標榜する永田では価値観が違う。歴史ある強豪出身の指導者としては、むしろ永田が異端とさえ映る。

2017年のセンバツで。大阪桐蔭・西谷浩一監督と握手を交わす報徳学園時代の永田監督　©Sankei Shimbun

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　それでは、永田は報徳学園のDNAをすべて変えてしまったのかと言えば、それは違うだろう。永田に「今も残る報徳学園のイズムはありますか？」と問うと、こんな答えが返ってきた。

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