一方、平昌五輪を制した『SEIMEI』に続き、和をテーマにしたフリー『天と地と』でも音楽と演技の融合を感じた。

「和楽器が使用されていることもあって、より“日本”というものを感じさせましたよね。日本独自のおくゆかしさや繊細な部分が、彼の演技を通して十分に伝わってくるようでした。SPも含め、細かなフレージングや楽曲の構成など、今の彼じゃないとできない表現に溢れていましたし、それほどのこまやかさを感じました」

　フリー冒頭の4回転アクセルは、前人未到の大技だった。ただ、プログラムの振付の1つ、とさえ感じられるほど溶け込んでいた。

©Asami Enomoto／JMPA

「新しい技に挑戦する姿に、“彼の引き出しは一体いくつあるんだろう？”といつも驚かされてばかりなんですが（笑）、シンプルにそういったものに果敢にチャレンジする姿は素晴らしいことだと思います。プログラムそのものを“伝えたい”という気持ちが前に出ていると感じます。曲が完結するまで、自分は“伝える人”なんだという強い意志が感じられますし、彼の演技の端々からはいつも感情が溢れているので、“滑り切る”というよりも、“伝え続ける”という表現の方がふさわしいのかもしれませんね」

《初出『Number』1046号（2022年3月10日発売）》