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羽生結弦は「伝える人」…あの共演から10年、親友・指田フミヤが評する“表現者”としての凄みとは?「演技そのものが、言葉を発している」
posted2022/07/23 17:00
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
Sunao Noto/JMPA
羽生結弦のエキシビションナンバーの1つ『花になれ』は、2012年のアイスショーで共演した指田フミヤが作詞作曲した。当時、リハーサルで歌詞を口ずさみながら演技する羽生の姿に驚いたと振り返る。
「何度も聞き込んでいてくれたのか、彼は歌詞の内容をしっかりと理解していて、歌詞そのものを表現しているという印象でした。もちろん、僕の楽曲で滑ってくれているのですが、“演じている”感があまりなく、彼自身のなかからわき出てきた感情や自分が表現したいことを、ありのまま表しているイメージが強かった。彼の演技そのものが、言葉を発しているように感じられました」
曲の情景、歌詞の世界観がすべて表れていた。身体で唄うような羽生のスケートに、自身の楽曲が認められたような気がした。
「恥ずかしい話なんですけど、彼の演技を見て『俺、こんな詞書いたっけ?』と思ったんですよ(笑)。僕の場合、なるべく個人的な感情を挟まないように詞を書くことが多いのですが、自分のエゴが少し入りすぎていたんじゃないかとか、本当に世に出してよかったのかなとか、小さな罪悪感のようなものがあったんです。ただ、彼と僕の曲が融合したときに、純粋に『あっ、すごいいい曲』と思ったんですよね。その時に自分がこの曲を世に出した意味があったなと初めて感じられたというか、自分のなかで報われたなという気持ちがあったんです」
「出会ったときは淡いピンク、今は深紅の赤」
初共演から10年。今も交流が続く“親友”の3度目の大舞台、北京五輪の戦いは、指田の目にどのように映ったのか。
「ショートプログラム(SP)、フリーのどちらの演技にも、これまで積み重ねてきた成果や過ごしてきた濃密な時間が、すべて凝縮されていると感じました。羽生結弦という人間が、彼に出会った時が淡いピンクだったとしたら今は深紅の赤に成熟している。年齢を重ねながら、いまも進化し続けるその姿はやはり感動そのものです」