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なぜ大阪桐蔭の主将が「自分たちは力が足りない」と繰り返すのか… 高校野球最強校に芽生えた「恐怖心」のきっかけ〈3度目春夏連覇へ〉
text by
間淳Jun Aida
photograph byNanae Suzuki
posted2022/07/18 06:01
センバツを圧倒的な力で制した大阪桐蔭。3度目の春夏連覇へのスタートを切る
「まだまだ力が足りないと自分たちは思っていたので、1点でも相手より多く取れば勝てることを意識して泥臭く戦いました。力が足りなかったので、主将として、もっともっと一生懸命やろうと言ってきました。部員41人全員で乗り越えられました」
今大会、星子は「自分たちは力が足りない」と何度も繰り返してきた。
初めは謙遜だと感じていたが、試合を重ねる度に本心だとわかった。ここに異色ともいえる強さを紐解くキーワードが浮かび上がる。恐怖心、だ。
“1つ上の代”の敗戦に芽生えた恐怖心
大阪桐蔭は昨年、春夏連続で甲子園に出場している。現在の3年生でレギュラーだったのは、捕手の松尾しかいない。その松尾も打順は8番だった。星子はベンチにも入れず、スタンドから声援を送っていた。昨年のチームは、絶対的エースの松浦慶斗、主軸の池田陵真と投打に柱があった。卒業後、彼らはともにプロ入りしている。しかし、春は初戦敗退。夏は2回戦で敗れ去った。
あの先輩たちでも勝てないのか――。
個の力ではかなわないと思っていた先輩が敗れ去る姿を目の当たりにして、星子や松尾ら現在の2、3年生に芽生えたのが恐怖心だった。
恐怖心は、点差があっても手を緩めない攻撃に繋がった。相手のエラーや四死球を見逃さない。隙を見つければ、一気に畳みかける。相手が戦意を喪失するまで攻め続ける。センバツでは、初戦以外は中盤で大差をつけていながら、計4試合でランナーを出せなかったイニングは4度しかない。
藤浪、根尾……2度の春夏連覇にはスターがいた
そしてもう一つ、今年の大阪桐蔭ナインが繰り返した言葉がある。
「束になって」
2度の春夏連覇の時も、昨年と同じく投打にスター選手がいた。'12年は藤浪晋太郎と森友哉。'18年は根尾昂、藤原恭大、柿木蓮。5人はプロ野球選手となり、柿木以外の4人はドラフト1位で指名されている。