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NPBスカウトの間で“無名の大型左腕”が急浮上? 進学校から目指す“ドラフト指名”「育成でもいいからプロに行きたい」
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2022/07/10 17:01
スカウトが注目する大型左腕・伊藤匠海投手(川越東高3年)。表情にはまだあどけなさも残るが、「プロ志望」という明確な目標を掲げる
184センチ73キロのスラッとした体格は、小顔で手足が長くいかにも投手といった体型だ。父は195センチの身長を武器にソフトテニスでインカレ優勝も果たした元アスリートで、母も165センチ近くあり、両親の遺伝子を存分に引き継いだと見る。また、地元・川島町のお寺で住職を務める祖父は根っからの野球好きで、「投手をやるなら左の方がいい」と、もともと右利きだった伊藤の利き腕を3歳の頃に左に変えさせた。こうした家族の存在もあって「大型左腕」の礎は築かれていった。
実家近くの川島ライオンズで野球を始め、中学時代は上尾シニアでプレー。そこでのプレーが川越東・野中祐之監督の目に留まる。
「左投手特有の右打者内角低めに投げ込めることが魅力に感じました。分かっていても打てないクロスファイアでしたし、性格も強気なんだけど冷静さも感じられました」(野中監督)
もともと学業にも強い意欲を示していた本人と文武両道を掲げる学校方針が合致。県内外の強豪校からも声がかかっていたというが、伊藤は川越東に進学した。
「考える野球」浦和学院撃破に貢献
自転車通学で毎日1時間20分。決して楽な選択ではないはずだが、現時点ではその決断は正しかった、と言える。
「川越東は自分で考える野球を徹底しています。僕もトレーニングの意図などを自分で考えたり聞いたりしたことで、質の高い練習に取り組めるようになり成長できました」(伊藤)
チームの環境が合い、成長速度を一気に上げ、球速は140キロに到達。1年秋には名門・浦和学院を7回2失点に抑える好投で金星の立役者となるなど、マウンドでもしっかりと成果を残した。
そんな文武両道を地で行く好投手が、なぜこれまで無名に近い存在だったのか。