通常、金網というのは最終決着の舞台として用意される。もつれにもつれた因縁や、修復不可能になってしまった関係の終着地点だ。とことんやりあい、全てを終わらせる。

　しかし、2人のこの戦いは、2番勝負の1戦目。2戦目は、このわずか2日後に後楽園ホールを舞台に通常のルールで行われることが決まっていた。

　エスケープに成功したたむは、扉の鍵を自ら外すと、倒れたままのなつぽいのもとへ駆け寄り、無事を確認するとこう語りかけた。

「もういいでしょ。2回も戦わなくていい。十分でしょ？」

敗れたなつぽいに語りかける中野たむ

　それを聞いたなつぽいの目に、力強さが戻った。

「私は、絶対に諦めない！　たむちゃんを超えるまで、絶対に、何度も何度も挑戦する！　諦めないって言ってんだろーが！」

　目標が揺らいだかもしれない、という不安は消え去っていた。

　たむは「もちろん、そう言うことはわかってたよ」と微笑んだ。

2人のうめき声が響いた後楽園ホール

　6月28日、ケージマッチから中1日での再戦は、金網が無いにもかかわらず、より重苦しいものになった。会場は技が決まった時の拍手や選手を鼓舞する手拍子を忘れてしまったかのように静まり返り、2人のうめき声が支配する時間が長くなった。

後楽園ホールでの再戦は壮絶な意地の張り合いとなった

　序盤、主導権を握ったのはたむだった。場外マットが剥がされた状態での床へのボディスラム、宙吊りスリーパーホールド、反撃されてもジャーマンスープレックスから掟破りのフェアリアルギフト（なつぽいのフィニッシャーであるダイビング・ボディプレス）、と攻め立て2連勝するかと思われたが、なつぽいはなんとフェアリアルギフトを5連発。なりふり構わずに勝利を目指し、そこから一気に必殺のフェアリーストレイン（クロスアーム式ジャーマン・スープレックス・ホールド）を決めた。しかし、たむは3カウントを許さない。

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