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井上尚弥の“最後の標的”ポール・バトラー(33)とは何者か? 世界が注目する4団体統一戦へ「私は彼の大ファン。日本に行き、戦いたい」
posted2022/06/24 11:04
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph by
L)Hiroaki Finito Yamaguchi/AFLO R)Getty Images
井上尚弥(大橋)のバンタム級での“最後の標的”はどんな選手なのか。
6月7日、井上はさいたまスーパーアリーナで宿敵ノニト・ドネア(フィリピン)に勝ってWBAスーパー、WBC、IBF世界バンタム級王者となり、目標とする4団体統一は目前。最後のターゲットであるWBO王座を保持しているのがイギリスの技巧派、ポール・バトラーだ。
バトラーは1988年11月11日生まれの33歳。34勝(15KO)2敗という派手さに欠ける戦績が示す通り、近年ボクシングが盛んな母国でもエリート扱いされてきた選手ではない。2014年6月、スチュワート・ホールとの英国人対決に微妙な2-1判定で勝利を飾り、16戦無敗のままIBF世界バンタム級王者になったものの、その後はゾラニ・テテ(南アフリカ)、エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)に敗北(テテとはスーパーフライ級に戻して対戦)。しばらくは陽の当たらない存在であり続けてきた。
しかし、以降も地道に戦い続け、WBO指名挑戦者に浮上する。すると4月22日、WBO王者ジョンリエル・カシメロ(フィリピン)に代わって出場したジョナス・スルタン(フィリピン)に判定勝ちし、WBO世界バンタム級暫定王者となった。直後、「減量目的でサウナを使用してはいけない」というBBBofC(英国ボクシング管理委員会)の規定に抵触していたカシメロが王座を剥奪されたため、バトラーがWBO正規王者に昇格。紆余曲折を経験してきたベテランは、ついに王者と戦わぬまま約8年ぶりの王座奪取を果たしたのだった。
井上対ドネアの再戦が目前に迫った5月中旬、バトラーにじっくりと話を聞いた。その言葉の一部は発売中の本誌に掲載されているが、ここでは完全版をお届けしたい。
素顔のバトラーは素朴で礼儀正しいナイスガイ。しかし、自ら大ファンでもあるという井上との対戦への熱い思いは本物であり、年内にも実現が噂される4団体統一戦は望むところのようである。
準備期間わずか“2日”で圧勝
――4月22日に行われたスルタンとのWBO世界バンタム級暫定タイトル戦を改めてどう振り返りますか?
「カシメロとの試合をめぐり、いろいろと複雑な状況になりました。12月にドバイで予定された興行では結局、リングに立てなかったので、今回はまず無事に試合ができたことを嬉しく思いました。試合に勝ち、リング上で私の手が上げられたことを心から幸福に感じています。試合後、2週間ほど休みをとって旅行し、おかげで素晴らしい時間を過ごすことができました」
――スルタン戦は3人のジャッジが大差(116-112、118-110、117-111)をつけての勝利でしたが、やりたいことができた試合だったのでしょうか?
「対戦相手がカシメロからスルタンに代わり、本格的な準備期間が2日間しかなかったことを考慮すれば、いいパフォーマンスができたと思っています。それまでは別の相手を念頭に置いていたので、ファイトプランを2日で煮詰めなければいけませんでした。最高レベルの世界戦という舞台で力を発揮するのは難しいもの。あの日はジョー(・ギャラガー)の指示を守って戦えました。“慎重に、賢明に、12ラウンズを戦い抜く”というプラン通りに戦えたことが好結果につながりました」
――12月の試合を流したカシメロは、今戦でもリングに立てるのか寸前まで分からず、準備はやはり難しいものだったのでしょうか?
「精神的に非常に難しいものでした。約10週間、まずはカシメロを念頭に置いて準備を進めてきましたが、ジムではトレーナーのジョーと“カシメロ、バトラーという2人に対してのファイトプランを用意しなければいけない”とジョークを飛ばしあっていました。カシメロとスルタンには共通点もありましたが、スタイルはやはり別物。ドバイでの直前キャンセルの記憶も鮮明だったので、メンタル面で集中し、準備を重ねることは非常に困難でした」
――そんな状況でも冷静に仕事をこなし、スルタン戦は自身のキャリアでも最高のパフォーマンスだったと思いますか?
「それは間違いありません。33歳という年齢を見て、多くの人たちは私がもう全盛期をすぎていると考えていたのはわかっています。そんな見方を覆し、ここでいいパフォーマンスができたことが嬉しいですね」