濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
安納サオリ「誰よりも目立って、一目惚れさせる」 華やかさの裏で、人気女子プロレスラーが明かした“苦悩と決意”「遠慮なんかしてられない」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2022/06/16 11:00
2020年からフリーで活動する安納サオリ。OZ、アイスリボン、センダイガールズに定期参戦している
華やかさの裏で…「できれば記事にもしてほしくない(笑)」
「所属の時は団体に守られてました。フリーになったら自分のことは自分でしなくちゃいけない。でも私は恵まれてるんですよ。スケジュール管理からグッズ製作、カメラマンの方だったり助けてくれる人たち、“チーム安納”がいるんです。自分では何もできないので(笑)。だから余計、プロレスを頑張らなきゃいけない。リングに集中して結果を出さなきゃいけないんですよ。でもそれができてなくて、今」
それが「もどかしさ」の根本だ。
「ベルト巻けてない、活躍できてない、話題がない。最悪ですよ」
こうして取材してくれても、なかなか前向きな話題が出せないんですよね、と安納。つい不満や不安を漏らしてしまうのが自分でも嫌だと言う。
「できれば記事にもしてほしくないくらい(笑)」
フリーになって2年あまり。タイトル戦線で闘っても「いいところで負けてしまうんです。チャンスを掴めない自分がいる」。
彼女がフリーとして活動してきた期間は、ほぼイコール「コロナ禍」だ。2019年いっぱいでアクトレスガールズを離れ、20年2月からフリーとして試合をするようになった。ところが自粛要請で3月は試合が半減。4月からは緊急事態宣言に入った。フリーとしてのスタートダッシュを止められてしまったのだ。
ただ、それを言い訳にはしたくない。フリーだから軽く扱われているとも思わない。けれど、フリーとして満足のいくキャリアが作れていない。
「安納サオリというブランドをもっと高めなきゃいけないのに、それができてない。悔しいですね……」
“人気レスラー”の知られざる悩み
もともと芸能界からのプロレス挑戦だった。役者を目指して滋賀から上京したのは18歳の時。プロレスという“舞台”は前後左右あらゆる角度から自分を見てもらえるのがたまらなかった。「普段は引きこもり」だから、コスチュームを着てリングに上がることで初めて“安納サオリ”として輝くことができる。なのに今は、リングに上がっても十分に輝くことができていない気がする。
誰がどう見ても人気レスラーの安納に、そんな悩みがあると気づく人間は少なかったかもしれない。だが“人気レスラー”で満足しないからこそ悩むのだ。アクトレスガールズ時代は「芸能人にプロレスができるのか」、「甘く見るな」といった偏見と闘うために必死で練習した。思いついた技やヒントになる言葉を書き込む「安納メモ」はどんどん厚くなった。マイペースでそこそこ楽しくやっていければいいなどとはまったく思っていない。