安納サオリをもう1段階、成長させるためには何かきっかけが必要で、それが『NOMADS'』での“やりたい放題の両者リングアウト”なのかもしれなかった。ただ、いつもと違う状況でテンションが上がった自分にも、安納は疑問を感じていた。

「いつもテンションは高いつもりなんですけど。『NOMADS'』はいつもと違ったんですかね。それも悔しいですね、いま思うと」

　今回は特別、ではいけない。いつでもどんな試合でも“特別”なはず。安納はそう考える。彼女を悩ませているのは、おそらく自らのプロ意識だ。

「でもSAKIさんとフリー同士でタッグを組むことになるなんて思ってなかった。人生何があるか分からないですよね。それが面白い。1日1日を楽しんでいかないと」

安納の決意「私もそろそろチャンス掴まなきゃ」

　話すうちに気持ちを切り替えようとしていた安納。そこに新たなチャンスが来た。アイスリボンのシングル王者決定トーナメントだ。5月28日、横浜ラジアントホールでの1回戦では、やはりアクトレスガールズ出身の清水ひかりと初シングル。以前から自分を慕ってくれていた後輩と闘い、その成長を感じた。勝利すると清水から「優勝してください。そしたら私が挑戦しますから」と“タイトルマッチ予約”をされた。

　アイスリボンはチャンピオンだった春輝つくしが引退。取締役選手代表の藤本つかさは結婚を機に無期限の休業に入った。今は残った若い選手たちの躍進がテーマになっている。つくしが返上したベルトを所属選手が巻けるかどうかは大きなポイントだ。とはいえ、安納も遠慮するつもりはない。自分だってベルトがほしい。

「今までのチャンピオンを見ていると、アイスリボンを引っ張っていく、看板を背負う意識が強い方ばかりですよね。そんな凄いベルトだから巻きたい。一度挑戦して、勝てなかったというのもありますし。

　遠慮なんかしてられないですよ。みんなそうじゃないですか。それはひかりと試合しても分かりました。所属もフリーも、みんなほしいんです、このベルトが。私だって“新生アイスリボン”で最初のチャンピオンになりたい。私もそろそろチャンス掴まなきゃ」

　人気レスラーからトップレスラーへ。今はその狭間だろう。華やかさの裏で安納サオリはもがき続ける。もがいていることなど本当は表に出したくない。けれどすべてを「見られる」ことが安納サオリのスタイルであり喜びなのだと、彼女は心のどこかで確信してもいる。

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