社会人野球へとキャリアアップを果たした宮本は、「ドラフト候補」となった。

　きっかけは、2年目の昨年だ。日本選手権予選のスクールパートナー戦で先発した宮本は、3安打、15奪三振の完封劇を披露。プロ野球スカウトのリストに挙がった。

　宮本はしかし、浮かれることはなかった。紆余曲折の野球人生。「急がば回れ」の重要性を知る苦労人は、「今年はさすがにないやろ」と現実を理解していた。ドラフト会議当日も練習し、帰りのバスの中で速報をチェックするくらい気にはしていたが、指名されなくても「そうやろな」と割り切れた。

　大学経由で社会人入りした選手の場合、ドラフト指名が解禁される2年目を過ぎると「プロ入りはだんだん厳しくなる」と言われている。だから宮本も、今年がラストチャンスだと自覚している。

　最速は151キロのままだが、サイドスロー特有の鋭く曲がるスライダーは磨きをかけているし、カットボールとフォークを織り交ぜることで投球の幅はさらに広がった。今年は中継ぎがメインだが、「1年ごとに成長できている」と確かな手応えはある。

©Genki Taguchi

今思う、ベンチ外だった「大阪桐蔭時代」

――ベンチ外だった高校時代からの成長を、自分ではどう捉えているか？

　宮本がサッと空を見つめてから言った。

「あの厳しい環境で野球をやれて、こうやってステップアップして、上のレベルを知れているわけですし。だから、いろいろと悔しい想いはしましたけど、後悔はないですよ」

　大阪桐蔭の同期で今も第一線で野球を続けている選手は、自分を含めキャプテンの福田光輝（ロッテ）、エースの田中誠也（大阪ガス）、外野の藤井健平（NTT西日本）の4人だけだという。メンツでも明らかな通り、ベンチ外だったのは宮本ただひとりだ。

　泣くことすらできなかったあの夏から7年。

　JR東海の選手として表舞台に立つ宮本が大阪桐蔭のグラウンドに挨拶へ行くと、監督の西谷浩一から必ずこう言われる。

「宮本はホンマに粘り強いなぁ」

　名もなき選手であったとしても、誰もが名門の精神を受け継ぎ巣立っていく。

「大阪桐蔭の出身です」

　宮本佳汰は、彼のような選手たちは、背筋を伸ばして謳う。

©Genki Taguchi

＜前編から続く＞

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