「そんなの必要ないのに神奈川大の監督が気を遣ってか、純也におみやげを持たせていたんですよ。せんべいかなにかが入った大きな丸い缶を」

　キャンプでの伊東は、物怖じすることなく自慢の快足を印象づけ、全日程を終えた。

「それで帰りもぼくが送っていこうとしたら、純也が“しまった！”といって、みんながいるところに走って行ったんです。なにかと思えば、おみやげを渡し忘れていたんです。さすがに甲府の選手やスタッフに、“こういうものは初日に渡すもんだろ”って突っ込まれていましたね。あいつは天然で、すっとぼけたところがあるんですよ」

　こういうところがちょくちょく顔をのぞかせるから、口数が少なくても伊東は自然と可愛がられる。

　人見知りで口数が少なく、器用に立ちまわることができない伊東を見ていて、思い出す名手がいる。リケルメだ。内向的で注目されることを極度にきらうが、全幅の信頼を寄せられてピッチに立つと、天賦の才を解き放って勝負を決める。アルゼンチンの貧しい地域に育った選手には、こうしたキャラクターの選手が少なくない。

　伊東もまた、リケルメの系譜につらなるひとりだ。ピッチ上でしか自分を表現することができない。だから目が離せない。

　ドイツ、スペインとの対戦が決まったワールドカップについてたずねると、伊東は言った。

「俺は1対1を仕掛けるだけなんで、とくに変わったことはないです」

　日本代表には、こういう選手がいる。それだけでワールドカップが楽しみになってくるではないか。

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