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「いまでも英語は全然話せないです…」伊東純也の自宅で見つけた英語のテキスト 人見知りの29歳はベルギーで4年目、なぜ適応できたのか?
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byGetty Images
posted2022/05/06 17:01
“日本代表の救世主”伊東純也。2019年2月にベルギーリーグ・ヘンクに期限付き移籍。20年3月に完全移籍し、昨年10月に24年夏まで契約を延長している
伊東 言葉はしゃべれるに越したことはないですけど、うーん、多少のコミュニケーションさえ取れればいいかな。いまでも全然しゃべれないんですけど、そんな必要は感じていなくて。
ざっくりいえば、「言葉なんかできなくてもやっていけます」ということ。私は移籍直後のヘンクの自宅にも足を運んだことがあり、そこには英語のテキストがあったが、あまりはかどっていないようだった。
伊東はベルギーに行って変わったのか。答えはノーだ。むしろ変わっていないから、上手くやれている。
苦手な言葉を必死に学んで、監督やチームメイトとのコミュニケーションに気を遣うようになったら、単独で果敢に仕掛けていく強みは失われてしまうだろう。ボールを持って味方を探すようになったら、伊東は伊東でなくなってしまう。無理して変わろうとしなかったのが正解だったのだ。
「(いらだちが)顔にでちゃうんです」
日本に比べてヨーロッパは個人主義なので、街を歩いていても騒がれることはない。そんなところも居心地がいいのだろう。
口数が少ない伊東は、ピッチ上ではむしろ雄弁だ。
プレーには迷いがなく、早い時間に代えられたりすると「大丈夫か?」とこちらが不安になるくらい、いらだちが顔や態度に出るときがある。
そのことを指摘すると、苦笑いを浮かべてこういった。
「もうちょい大人しくしてたほうがいいと思いますけど、顔に出ちゃうんです。最初のころは早く下げられてむかつくこともあったんですけど、まあ別に問題ないです。結果を出して、そのまま使ってもらっているんで」
しっかりと自己分析ができて、そのことを言語化できる選手が多い日本のサッカー界の中で、伊東のように口下手でときに熱くなってしまうタイプはかなり珍しい。だが厳しいときに頼りになるのは、こういう男なのかもしれない。
渡し忘れたおみやげ「こういうものは初日に渡すもんだろ」
周りに流されず、伊東は自分の道を突き進む。そういうふうにしか生きられない。
ぶっきらぼうなところもあるため、組織の中で浮き上がってしまう恐れもある。だがヘンクでも日本代表でもそうなっていないのは、ピッチでしっかり結果を出していることに加え、不愛想に見えて実は愛らしいキャラがしっかりと伝わっているからだ。
神奈川大学時代、まだ1年生だった伊東を見出したヴァンフォーレ甲府のスカウト、森淳が伊東との思い出を語る。
「ぼくはこれぞと思った選手を甲府のキャンプに参加させるとき、よく車で送り迎えをするんです。その道中の時間を利用して、“先輩の指示なんか気にするなよ”とか“失敗してもいいから、自分のいいところを出しなさい”といった助言ができますから。純也のときも、そんなふうにアドバイスしたと思います。そうそう、そのときちょっと面白いことがあって」
と森が語り出したのは、キャンプに参加する伊東がおみやげを手にしていたということ。