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キプチョゲを生んだマラソン大国・ケニアの意外な最新事情「日本人選手は大迫傑しか知らない」「環境ではなく“靴”で練習拠点を選ぶ」
posted2022/05/10 11:00
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph by
Naoya Sanuki
2021年、ケニアのイテンに世界の頂上を目指して戦える選手を育成・強化する「ASICS CHOJO CAMP」が設立された。ケニアでは、東京五輪男子マラソンで金メダルを獲得したエリウド・キプチョゲを始め、世界トップクラスのランナーを輩出している。その中心となるイテンは「マラソンの聖地」と呼ばれ、有望な選手を育成する“キャンプ”が混在しているのだ。アシックスが運営する「CHOJO CAMP」でも、若い選手や可能性がある選手をスカウトし、トップランナーを育てている。
既婚の女性ランナーも家から通う「キャンプ」とは?
このキャンプが面白いのは、特別なセレクションがないということだ。
マネージメントのトム・ブロードベント(UK)は、こう語る。
「ケニアは他国と比べると地形や高度など環境が特殊なので、タイムを見て、ただ速い選手というだけで合否を決めていません。実績に頼らず、選手のモチベーション、体型、走り方、目標をはじめ、話し方、話す内容などからコーチの目で選考しています」
トムは、8年前からMezzoという会社でケニアの選手をリクルートする仕事をしてきており、そのノウハウをアシックスとの事業に活かしている。
現地にはトーマス・ポッチンガー(オーストリア)とピーター・ビル(ケニア)の二人のコーチがいるが、スカウティングはトムとトーマスが主に動いている。今年1月に加入したウィルフレッド・キムテイ(ケニア)は、16年アフリカ選手権10kで銀メダルを獲得、UNDPの10kのレースに参加した後、トムとトーマスに声をかけられてキャンプに参加した。今は10kやハーフが主戦場だが、来年からマラソンに取り組み、いずれはキプチョゲのように五輪でメダルを獲りたいという。
現在、40名がキャンプに参加しており、その内20名はキャンプ内で生活し、20名はキャンプ外で生活している。キャンプ外から通うのは、結婚して家族を持っている女性ランナーが半数以上。練習の時だけ合流する。今回、マラガで開催されたMETA:Time:Trialsの10kで優勝したヴィコティー・チェプンゲノ(ケニア)も外から通っているが、彼女は1月のヒューストンハーフで1時間5分3秒の世界歴代11位のタイムで優勝している。ケニア人の軽い走りではなく、ダイナミックな走りが特徴的で「コスゲイやギディのように世界のトップに立ちたい」という注目のランナーだ。
彼女を含め25名は、すでにアシックスと契約し、プロとして活動しているという。
ケニア人がキャンプを選ぶ基準は「環境」より「靴」
ただ、こうした活動はすでにナイキやアディダスが先行しており、他にもイテンにはさまざまなキャンプがある。CHOJO CAMPは他キャンプとどう差別化を図っているのだろうか。