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「僕とタイトルホルダーは折り合えるんだ」 横山家の長男・横山和生(29)が明かした天皇賞・春への自信と“父・典弘からのアドバイス”
text by
藤井真俊(東京スポーツ)Masatoshi Fujii
photograph byPhotostud
posted2022/04/30 06:02
3月26日、和生にとって騎乗2戦目となった日経賞では、ゴール前の追い込みをしのいで逃げ切った
和生に舞い込んだ“ビッグオファー”
そんな和生のもとに大きなオファーが舞い込んだのは昨秋のこと。武史が騎乗し、昨年の菊花賞を5馬身差で圧勝したタイトルホルダーへの騎乗依頼だった。タイトルホルダーを管理する栗田徹調教師は、当時の経緯をこう述懐する。
「あれは菊花賞の祝勝会でしたね。次走は有馬記念と決まっていたのですが、武史がエフフォーリアに乗るので、代わりの騎手を誰にしようかという話になったんです。そこで山田弘オーナーと生産者の岡田牧雄さんと相談して決めました。ピンポイントではなく出来るだけ長くコンビを組めそうだったり、前任の武史と兄弟であることなど様々な要素はありましたけど、一番は彼の騎手としての姿勢ですよね。すごくマジメで研究熱心ですし、馬のことをよく理解して、呼吸を合わせようとしてくれる。そうやってひとつでも上の着順を目指す姿が印象に残っていました。オーナーも生産者も同じ考えで、すぐ話はまとまりましたよ」
栗田もまた、和生の馬やレースに対する取り組みを評価していた一人だったのだ。一方で、このビッグオファーを受けた時の和生は驚きを隠せなかったという。
「ある日の夜に突然、栗田先生から『有馬記念空いてる?』ってメールが来たんですよ。すぐに『空いてます!』って返したんですけど、最初は冗談かと思いました(笑)。でも翌週に改めて先生と顔を合わせると『頼むからね』と言って頂いて、これは本当なんだな……と。うれしかったですよ。だってGIを勝っている馬の手綱が僕に回ってくるなんて、普通は考えられないことですから」
「タイトルホルダーに“和生”という人間を理解してもらえた」
和生とタイトルホルダーが初めてコンタクトを取ったのは有馬記念の2週前から。普段の調教や追い切りに騎乗してGI馬への理解を深めた。
「一番に感じたのは繊細さ。雑に扱ってはいけないというか、決して隙を見せてはいけないということです。これはトーセンスーリヤ(和生とのコンビで重賞2勝)などとも共通するんですけど、乗っていて緊張感があるというか、絶対に気を抜けないんですよね。あとは大まかなクセなどは武史から聞いていて、大体イメージ通り。折り合い面も簡単ではないけど、自分なりに掴むことができました。何よりタイトルホルダーに“和生”という人間を理解してもらえた時間だったのかなと思います」
そして迎えた有馬記念。2番手から運んだ和生とタイトルホルダーは最終コーナーで前を交わして先頭へ。ラスト1ハロンまでは踏ん張っていたが、最後は後続に交わされて5着でのフィニッシュとなった。
初コンビを組んだ和生の騎乗を栗田はこうねぎらう。
「(不利とされる)大外枠から2番手の競馬。上手く乗ってくれたと思いますよ。最後の直線でも坂下までは『オッ』と思わせてくれましたから。力は出し切ったと思います」