父・典弘は「俺も空いてるけどな」

　年が明けた2022年。上半期の大目標が天皇賞・春に決まり、その前にどこかの前哨戦を走らせることになった。本番と同舞台の阪神大賞典を使うプランも浮上するなか、最終的に日経賞に向かうことになった経緯を栗田が明かす。

「有馬記念の後に少し順調さを欠いたのと、余力を持って本番に向かうためには阪神まで輸送して3000mの距離を走らせるのは得策ではなく、有馬と同じ中山2500mの日経賞から始動した方が負担が少ないのではないかと和生と相談しました。そう言えば、同じようなアドバイスを武史や（父の）典さんもくれたんですよね。まぁ典さんの場合は『俺も空いてるけどな』って付け加えるんですけど（笑）。でもありがたいですよ。そうやって家族3人で親身になって考えてくれるんですから」

　日経賞を使うにあたっては「3つの大きなテーマがありました」と栗田は言う。

「僕とタイトルホルダーは折り合えるんだ」

「まずは無事にレースを終えること。そのうえで最良の結果を残すこと。そして天皇賞・春へ向けて余力を残すこと、です」。一見すると相反することを求めているようにも思える難しいミッションだったが、日経賞での和生とタイトルホルダーは、見事にその全てをクリアして見せた。

「正直、状態としてはまだまだ。いい時はもっと切れのある走りをしますし、最終コーナーの動きを見ても、本来のグッと後ろを離すような姿ではなかったですから。でもそういう中でも勝ってくれたのは地力の高さがあったから」

　栗田がそう安堵の表情を見せれば、騎乗した和生も手応えをこう口にする。

「直線では内外から後続馬に迫られて、傍目には危うく映ったかもしれませんが、乗っている感覚的には『負けないな』と思っていました。当然、仕上がり具合としては有馬記念ほどではなかったですけど、逆に言えば改めて底力を感じたレースでしたね。戦前はいかに馬といいリズムを作って乗れるかをテーマとしていましたが、そこの部分も非常にうまくいったと思います。何より収穫だったのはスタート後に積極的にハナを奪いに行く形で勝てたこと。次の天皇賞・春では距離がさらに700m延びるわけですけど、『スタート後にこれだけ出して行っても僕とタイトルホルダーは折り合えるんだ』と自信になりました」

タイトルホルダーとのリズムを信じて…

　いよいよ次走は5月1日の天皇賞・春。タイトルホルダーにとっては2つ目のビッグタイトルが、そして和生にとっては初のGI制覇がかかる一戦となるが、陣営からは気負いのようなものは感じられない。

「とにかく和生には思い切って乗ってほしいですね。ライバルのディープボンドは凱旋門賞にも挑戦したくらいの馬で、ウチはあくまでチャレンジャーの立場ですから。オーナーも『お祭り気分で思い切り乗って欲しい』とおっしゃっています。まぁこれだけの大舞台ですからなかなか難しいでしょうけど、なるべく自然体でいられるような環境作りをしてあげたいと思ってます」と栗田が言えば、当の和生も「プレッシャーが無いと言えばウソになるかもしれません。でもGIの舞台に、これだけの馬と一緒に向かえるなんて、誰にでも味わえるシチュエーションではないですからね。これまで築いてきた自分とタイトルホルダーとのリズムを大切にして、楽しんで乗ってきたいと思います」と白い歯を見せた。

　さらなる飛躍の時を迎えた人馬。はたして和生とタイトルホルダーは、どのような会話をしながら仁川の3200mを回ってくるのだろうか。

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