Number Do MoreBACK NUMBER
マラソン界の危機を救う“ギャンブル化”は暴論か?「スポーツを堕落させる」の声も、大迫傑への“報奨金2億円”が示す可能性
text by
長浦京Kyo Nagaura
photograph byNanae Suzuki
posted2022/04/18 17:00
2020年の東京マラソンで2度目の日本新記録をマークした大迫傑。2018年のシカゴマラソンに続き、日本実業団競技連合の報奨金1億円を獲得した
重要なのは、競技と個々の選手を中・長期的に支援し、同時に支援した人が何らかの還元を受けられる仕組みを作ること――だが、マラソンに限らずスポーツを賭けの対象とするのに抵抗を感じる人は多い。単行本執筆時に話を開かせていただいたあるマラソン関係者には、「それは生理的に嫌だ」といわれた。「極端なプロ化はマラソンにそぐわない」という方もいた。「賭け金は選手に送る声援を可視化したもの」と説明したら、「そういう詭弁がスポーツを堕落させる」とお叱りを受けたこともあった。
スポーツ界が悪しき精神論から抜け出した今だからこそ
個人の考えは尊重するし、ギャンブル化が唯一の正解だという気も毛頭ない。
ただ、日本人はスポーツを精神修養の手段にしたがり、そして神聖化したがる。
しかも往々にして歪んだかたちで……。
高校野球も、強豪校ほどかつては理不尽な規則に縛られ、練習とも呼べないようなシゴキを続けている学校が多かった。
若い世代には信じられないだろうが、1990年代までの大学・高校の強豪陸上部は、科学とはかけ離れた精神論で支配され、それに馴染めず、能力が高くても潰されてゆくランナーが少なくなかった。勝利への過度なプレッシャーをかけられた末、国際レースの本番で萎縮し、下位に沈む選手もいた。そうしたシゴキや根性論を是とする文化から長い時間をかけ、日本の陸上界がようやく抜け出せ、しかもマラソンがかつてないほど浸透し、支持されている今だからこそ、この競技の将来像をあらゆる制約を持たずに議論すべきではないか。
大迫傑に贈った“計2億円”の報奨金をモデルケースに
思い出してほしい。今年2月に現役復帰を表明した大迫選手が、2018年シカゴマラソンで当時の日本新記録を出し、報奨金1億円を手にしたときを。その2年後、2020年東京マラソンで日本記録を更新し、再度1億円を贈られたときのことを。
非難する人は皆無で、むしろ結果に対する正当な評価だと多くが好意的に受け止めた。報奨金を贈った日本実業団陸上競技連合を賞賛する声も多かった。
「プライスレス」などという言葉で誤魔化しながら、将来使うかどうかもわからない箱モノを建て、何をしているかもわからない役員に多額の報酬を支払うより、税金に頼らず独自に原資を蓄え、選手の打ち立てた素晴らしい記録と、与えてくれた感動を正確に数値化し、褒賞を贈る。マラソンに限らず、そのほうが遥かに競技の発展につながるのではないか。
高い理想や強い意志も確かに重要だ。
だが同時に、カネがあれば大抵の問題は乗り越えられるという事実も、どうか忘れないでほしい。