敗れても、青木がインタビューに答える理由

　もちろん負けたのは悔しい。那須川天心や武尊のような器ではないと思い知らされて、試合直後には引退を示唆するような言葉もあった。勝敗を度外視するような闘いなど、これまでしたことがない。それでも秋山戦は「最高傑作でしょう」と青木。これからについても考えていることがある。

「いろいろ思うことはあります。ただ大一番をたくさん経験して、失敗もたくさんしてる分、立ち直り方も知ってる。

　“負け太り”って言うんですけどね、青木用語で。負けたインパクトで存在感が大きくなるタイプの選手がいるんですよ。アントニオ猪木、桜庭和志、最大の例は高田延彦。僕もそうなんじゃないですか」

　これからも試合は続ける。できるだけ早く次の試合がしたいという。青木真也vs.秋山成勲というカードは「燃料のカロリーが高かった」からこそ「終わった後に“文化”が廃れないようにしないと」とも考えている。だからインタビューにも応じて“青木真也の文学”を綴ろうとする。

「インタビューに答えるのも仕事ですから。僕を応援してくれる人って仕事してる人、働いてる人ですよ。プレゼンで負けたって、また明日から仕事するわけですよ、働いてる人は。それと同じですよね」

帰国すると4.2RISEの解説を務め、翌日のK-1も観戦。早く試合がしたいと元気な姿を見せた　©Norihiro Hashimoto

「キング・カズみたいになっていくんじゃないですか」

　そんな青木真也には、いつか気持ちよく「やり切った」と思って選手生活を終えられる日がくるのだろうか。

「やめられないんじゃないかなぁ。家族のためにって引退する選手が多いですけど、僕は家族と離れちゃってますからね。歯止め、セーフティネットがない状態ですよ。それに“金じゃない”という領域まできちゃったし。

　だから文脈としてはキング・カズ（三浦知良）みたいになっていくんじゃないですか。舞台のランクが下がっても、試合は続けてると思います」

　そう言って、青木はアマチュア大会や新人大会が開催される小規模会場の名前を挙げた。

「たとえば50歳になって、GENスポーツパレスで試合をすることもあるんじゃないですか。そうなっても、青木真也の物語みたいなものを作れると思います。青木真也の見方を提案できるというか。ずば抜けたものになるかもしれない。

　ケガとかダメージは、もうこのジャンルに含まれてるものですよ。そういうことやってんだから仕方ない。格闘技やらなきゃ生きていけないからさ。これ以上面白いこと知らないから。

　それくらい刺激が強い、格闘技は。だからスポーツ、政治、ギャンブル、麻薬って同じ枠じゃないかって思いますね、少なくとも僕にとっては。映画のランボーみたいなもんで、イキイキとまともな状態でいられる場所が戦場しかない。それを分かってやってるんだから狂ってますよ。社会に認められるかどうかとは別のところでやってますから」

　青木の考え、青木の生き方をすべて肯定することはできない。ただ秋山戦の背景にこれだけの思い、彼の言う「文脈」があったことは伝えておきたい。こういうふうにしか生きられない人間が、確かにいるのだということも。

青木真也ならではの個性は、敗れてなお際立ったと言える　©ONE Championship

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