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「那須川天心や武尊とは違うんですよ、僕は」青木真也が因縁の秋山成勲に大逆転KO負け…帰国して語った本音とこれから「50歳になっても」
posted2022/04/15 17:01
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
ONE Championship
「器じゃなかった」
秋山成勲に敗れた青木真也は言った。格闘技の試合とは、もちろん強さを競う場だ。だが青木は「自分が弱かった」という意味も含めてではあるが「器じゃなかった」と表現した。試合の中に“自分は何者なのか、何ができる人間なのか”という問いがあったということだろう。文学的な言葉のチョイスと言ってもいい。
青木と秋山は、3月26日の『ONE X』シンガポール大会で対戦した。アジア最大級の格闘技イベントONE Championshipの10周年記念大会だ。CEOのチャトリ・シットヨートン氏は、彼らの対戦を「グラッジマッチ」(因縁の対決)として組んだと語っている。
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「2人は本当のBAD BLOOD(不仲、敵対関係)ですから」
青木と秋山をめぐる“因縁”
因縁は2008年に遡る。当時、青木と秋山はPRIDEの後継団体であるDREAMを主戦場としていた。対戦要求したのは青木だ。当時から相容れないものがあった。が、両者の体重差は10kg以上。秋山は取り合わず、その後UFCに参戦している。
DREAMが活動しなくなると、青木はONEへ。ライト級でベルトも巻いた。そこへやって来たのが秋山だった。ONEと契約すると、独自の階級制度の中でライト級に落とすことも視野に入れていると語った。実際、ケガで実現しなかったが青木戦以前にもライト級での試合が組まれている。
ONEのライト級は「水抜きなしの77.1kg」がリミットとなる。UFCなどでは77.1kgはウェルター級、ライト級は70.3kgだが、ONEは選手の健康面を考慮して、サウナなどで汗をかき、水分を抜いて急激に体重を落とす「水抜き」を禁じているのだ。その分、他団体での1階級上の規定体重を採用している。計量後の尿比重検査もある。
秋山がライト級で試合をする可能性がある。となると青木が黙っていなかった。再び対戦要求。昨年秋、ONE側からオファーがあったことも明かした。青木は即答したのだが、返事を待たされた挙句、ケガを理由に秋山が断ってきたことも。
秋山が解説を務める大会に出場した青木は、試合後に「なんで断った!」と詰めた。秋山にしてみれば万全の状態でなければ試合をしないのは普通のことだ。だが青木は納得しなかった。
彼は格闘技イベントを「一座」と考える。たとえば「K-1の座長は武尊」だと。選手はそれぞれのポジションで一座に貢献する。自分1人でやっている仕事ではない。そういう青木にとって、団体から求められた仕事を断るという選択はないのだった。
ただ秋山も、ケガが治ったところで再度のオファーを受諾した。UFCでは「水抜きあり77.1kg」だったから減量はかなり厳しかったが、それもクリアした。
劇的で完全な決着
ケージに入った両者のサイズは、かなり違って見えた。青木は減量で無理をしないタイプ。ギリギリまで体重を落とし、計量後のリカバリーで増やすのではなく常にグッドコンディションを保つスタンスだ。