堀田高3の秋、投げ込まれるボールのあまりの「圧」に、汗びっしょりになった私に、兜森監督が声をかけてきた時、

「ボールもとんでもないですけど、マウンドの姿に品があって、いいなぁ、こういうピッチャー」

　思わず、そう答えていた。

　捕手の位置から見上げた堀田投手のたたずまいに、胸を打たれていた。

　意識してそう立とうとはしていないのに、大きく見えるユニフォーム姿。丁寧に返球をもらう誠実さ。こちらからのゲキを受け止める時の、ひき締まった顔つき。そして何より、豪快で爽快な、若者らしいピッチングフォーム。

「今まで、球が速いとか、身体能力がすごいとか、ずいぶん誉めていただきましたけど、監督としては、そう言っていただいたのが、いちばん嬉しいです」

　目をうるませたような兜森監督の横顔が忘れられない。 

「3年後のジャイアンツのエースは他にいないだろう」

　エースピッチャーの周囲には、エースにしかない雰囲気というものが漂う。

　それは、プロでもアマチュアでも同じことで、そういう雰囲気が漂わなければ、「エース」の称号はまだ早いのだろう。

　一軍登板2戦目で、プロの怖さの一端を味わった堀田だったが、打たれて下を向いた場面はなかった。タイムリーを打たれて、バックアップからマウンドに戻る時も、目線はまっすぐ前を向いていた。

　先発なのに試合を作れずやられてしまったが、不思議と敗北感は漂っていない。そこが、「堀田賢慎」なのだ。

　翌日、出場選手登録から外されたが、1週間先の14日には試合がないから、2週間先の21日には、再びマウンド上にその雄姿があってほしい。ある意味で、近い将来のジャイアンツのエースになれるか否か……その分岐点にもなる試合。一度やられて、そのあとどう立ち直ってくるのか。人の値打ちはそこだろう。

　その速球の威力、速球以上に猛烈な腕の振りから繰り出すチェンジアップに、桑田真澄コーチに仕込まれて鋭さを増したと聞くカーブ。それより何より、マウンドに立ちはだかった時のユニフォーム姿。

　偉大な先輩・菅野智之投手にも負けないように見える“存在感”に、私は内心、「3年後のジャイアンツのエースは他にいないだろう……」と、かなりの自信と共に、楽しみに思っているのだ。