- #1
- #2
酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「大谷翔平はアメリカをエンジョイしていますね」「イチロー、格好よかったじゃないですか」元NHK解説者・ 池井優名誉教授(87歳)が語るMLB日本人史
posted2022/04/10 11:03
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Nanae Suzuki/Wataru Sato
慶應義塾大学名誉教授の池井優氏(87歳)は、日本にMLBの空気感を届けてくれた偉大な先人だ。アメリカの空気感とともに、村上雅則から大谷翔平らに続く日本人メジャーリーガーについて、じっくりと話を聞いた。(全2回/#1も)
藤田元司さんが大喜びした「審判の右腕に噛みついた話」
1988年にNHKで「大リーグアワー」の放送が始まると、池井氏は解説者としてマイクの前に座るようになった。
池井:1996年9月17日のドジャース野茂英雄のノーヒットノーランも解説をしました。今は技術解説が主流ですが、当時は「ロサンゼルス・ドジャースはなぜ、ドジャースというか」、「なぜニューヨークを離れてロサンゼルスに行ってしまったのか」といった話もしました。
印象深いのは藤田元司さんと組んだ時のこと。放送前に「『アメリカにも太った選手いるの?』って聞いてよ」と打ち合わせて、実際の放送で藤田さんがその質問をしたら、このような話をしました。「ああ、太った選手いますよ。彼は盲腸の手術をしてからムクムク太って120kgになったので、チームドクターが『しばらく肉を食べるのをやめて、野菜中心の生活にしろよ』と言いました。彼は好きなものが食べられずイライラして、審判の判定に文句を言って退場処分になったんですが。いきなり審判の右腕に噛みついたんですよね。その選手いわく『久しぶりに肉が食いたかったんだ』」と。藤田さん、大喜びしていましたね(笑)。
野茂に対して当初は冷たい目だったが
そんなふうに懐かしそうに語る池井氏には、昨今のMLBでの日本選手の活躍は、どう映っているのだろうか?
池井:日本人大リーガーの第1号は1964年の村上雅則ですけど、村上から第2号の野茂英雄まで30年ほどかかっているんですね。野茂が行く時も当初、マスメディアは非常に冷たかったですよね。「大リーグってそんな甘いもんじゃないぞ」と。
野茂にとっての1年目のシーズンは、前年度のMLB選手会ストライキの影響で開幕が遅れました。野茂は肩を痛めていたんですが、開幕が遅れたことで完全な状態に戻った。しかも暖かいフロリダで仕上げて、カクタス・リーグ(MLBのオープン戦の一つ)でも調整ができた。デビューしてどんどん勝ち始めると、大リーグの目が変わってきたんですね。
まず戦力になる。それから観客動員につながる。さらには日本からの放映権料が入ると。ところが投手だと、スターターはせいぜい4日に1回しか出場しない。野手を獲得したら毎日放映できてもっと金が入る、そう考えたんですよね(笑)。それで目を付けたのがイチローで。さらにイチローという選手はもともと大リーグ志向があったんですよね。