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川辺駿26歳が語る“プレミア移籍”の真相「実は練習参加の前から…」森保ジャパン4-3-3にハマる新戦力候補《今季スイス1部で6ゴール》
posted2022/04/01 11:04
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
freshfocus/AFLO
6月シリーズで招集される新戦力は誰か――。
日本代表がW杯出場を決めた今、ファン・サポーターにとっての最大の関心事だろう。
「できれば多くの選手にピッチに立ってもらい、チームを底上げしながら予選を戦っていきたかったが、今回の予選では親善試合がまったくなかったから、それができなかった。ここからは多くの選手を起用してW杯の準備をしていきたい」
出場権を獲得したオーストラリア戦のあと、森保一監督もこう宣言したから、期待は自ずと高まるというものだ。
シュツットガルトで最終ラインの一角を射止めた22歳の伊藤洋輝か、今季8ゴールを挙げているビーレフェルトの奥川雅也か、川崎フロンターレで売り出し中のアンカー、橘田健人か……。
スイスのグラスホッパー・クラブ・チューリッヒに所属するMF川辺駿も、6月シリーズでの招集が期待されるひとりだ。すでに代表キャップは4を数えているが、最終予選では選出されていないため、新戦力と言っていいだろう。
21年7月、サンフレッチェ広島から「ラストチャンス」という覚悟で海を渡ると、8月7日のリーグ3節・ローザンヌ・スポルト戦でスタメンデビュー。それ以降、全試合で起用され、キャリアハイを更新する6ゴールをマークしている。
それだけではない。スイスでの活躍が認められ、22年1月にはプレミアリーグの「ウルブス」ことウォルバーハンプトンと3年半の契約を結んだのである。
まさに、とんとん拍子のステップアップ――。
ところが、本人の感覚はまるで違っていた。
「すごく上手くいったように思われがちですけど、自分にしか分からない苦労というか、簡単ではなかったですね。もどかしい時期、苦しい時間も多かったので……」
「調子はいいのに、プレーできない」
Jリーグのシーズン真っ只中の移籍だったから、川辺は良好なコンディションで新チームに合流した。しかし、ビザの関係で3週間ほどプレーできない状況に陥ってしまう。
「開幕から2試合に出られないことになったし、ビザが下りていないと練習試合にも出られないんです。自分の調子はいいのに、プレーができない。アピールもできない。それは苦しかった。試合に出られるようになっても、最初の1カ月くらいは難しいなと感じていました。Jリーグよりもインテンシティが高く、ファウルで潰されてしまうことも多々あったので」
日本でプレーしていた頃から、「ここぞ」の場面ではドリブルで持ち運ぶものの、基本的にはシンプルにパスを捌く、球離れの早いプレーヤーである。しかし、自身よりもひと回りもふた回りも大柄な男たちの深いタックルと、ファウルも辞さないチャージが川辺を容赦なく襲った。
苦しんだのは、何もピッチ内に限ったことではない。
ピッチを離れると、自ずと考え込む時間が増えた。
「ひとりの時間が長いから、良くも悪くもサッカーについて考えることが増えました。試合でうまくいかなかった場面が1回だけでも、そのシーンを頭の中でリピートしてしまったり。うまくいかない選手が半年で日本に帰りたくなる気持ちもわかったし、逆に、こっちで少しでも長くプレーしたいと思う気持ちもわかった。自分と向き合う時間が増えて、メンタルが強くなったと思います。こっちで結果を出すしかないっていう覚悟が強まったというか」
当たり負けしないように、日本にいたとき以上にフィジカルトレーニングに励むようにもなった。
「焦りとか、不安とかじゃなくて、まずは自分にできる準備をしようと。筋トレの量もスプリントの量も増やしました。筋トレはチームで組まれているプログラムをこなすだけでも大変なので、必死にやっています。そのおかげで、当たり負けしないパワーが備わってきましたね」