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「注射打ってまでやっているのは、なんなんだろうって」キング内村航平の“超ハイレベルな引退試合”に隠された後輩へのリスペクトとは 

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矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

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photograph byAsami Enomoto

posted2022/03/20 11:01

「注射打ってまでやっているのは、なんなんだろうって」キング内村航平の“超ハイレベルな引退試合”に隠された後輩へのリスペクトとは<Number Web> photograph by Asami Enomoto

3月12日に開催された引退イベント「KOHEI UCHIMURA THE FINAL」。橋本大輝や白井健三ら豪華メンバーが集結した

 その白井に出場の打診をした時、内村は「自分の名前のついた技くらいは(やって)ね」とリクエストをしていたという。白井は6つある「シライ」の中から厳選した4個のシライ(ゆかのシライ/ニュエン、シライ2、シライ3、跳馬のシライ/キムヒフン)を披露した。

白井「航平さんの依頼じゃなかったら、諦めていた」

 白井は大会前、内村から寄せられたリクエストに、最初は腰が引ける思いだったようだ。なにしろ「シライ」はどれもが高難度で、中でもゆかの「シライ3」はH難度である。しかも、昨夏の引退後は母校の日体大で学生を指導しており、練習時間を確保すること自体が簡単ではない。しかし、白井は挑んだ。

「航平さんの依頼じゃなかったら、諦めていた。自分を追い込むことができたので、『白井健三』を出せば航平さんもお客さんも喜んでくれると自信を持ってやった」(白井)

 世界デビューを果たした高校生の時から、つねに前人未踏の地、教科書にない領域へ果敢に踏み込んでいた愛すべき後輩に対する特別なリスペクトが、引退イベントでの超ハイレベルな技の披露を現実のものとしたのだった。

 大会前、内村は「まだまだ試してみたいことがあるし、体の状態さえ良ければすべてできる、という感じがある。自分の体が動くまでは体操を研究したいという気持ちが強い」と語っていた。イベント後は「きょうで試合のような刺激が体に入ったので、今後、体の状態は良くなると思う。技術の追求をしやすくなるかな」と言いつつ、「もうやらなくていいかなという気持ちと、まだやれそうだなという気持ちが半々」と変わらぬ体操愛を“告白”した。

キングが語った「今後」 

 今後についてはこのように語った。

「体操のいろいろな分野で関わっていきたい。体操のことは自分が一番知っておきたい。技を研究し、後輩たちによりよく、わかりやすく技術を教えること。体操の普及。体操の価値の向上と、そのために必要な後輩たちの頑張りへの貢献。体操というジャンルすべてに関わりたい」

 目指したい形の一つは技術の言語化であるとも言う。引退後も広い意味で体操界の“キング”でありたいと意気込む内村にとって、胴上げで宙を舞って終えた「KOHEI UCHIMURA THE FINAL」はこれ以上ない良きスタートとなった。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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