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《野球留学生の悲しみ》スタンドから地元ファンのヤジ…明徳義塾・馬淵監督「勉強ならよくて、スポーツならあかんのか」
text by
菊地高弘Takahiro Kikuchi
photograph byTadashi Shirasawa
posted2022/03/23 11:03
明徳義塾を率いる名将・馬淵史郎監督。「野球留学生」について馬淵監督はどう考えているのか
「就学の自由があるんやから。勉強で鹿児島ラ・サールに行っとるのに、『鹿児島の子がおらん』と言われるようなもんや。勉強ならよくて、スポーツならあかんのか。野球だけやなしに、他のスポーツでも『この学校が強いから行きたい』と思うのはしょうがないよね。それだけの魅力があるいうことでしょう。魅力がなかったら行かないですもん」
スタンドから「頼むから愛媛に帰ってください」
ところどころ色づいた小高い山に囲まれた渓谷にある野球道場で、馬淵監督はとうとうと述べた。野球留学生に関する議論は、馬淵監督の言う「魅力がなかったら行かない」にすべて収斂されるような気がした。
もし、本人の意思を無視して連れ去られたとしたら大問題である。だが、明徳義塾野球部の門を叩いた者たちは、「ここでやりたい」と自ら進んでやってきたのだ。
それでも、理解してもらえない層は存在する。ある年の夏の高知大会で優勝した直後、優勝監督インタビューの最中に馬淵監督はスタンドからこんな声を浴びせられた。
「頼むから愛媛に帰ってください。もう満足したでしょう?」
決勝戦の相手は歴史ある人気校、高知商だった。声の主は地元びいきのオールドファンだったのかもしれない。口調は丁寧だが、その内容は馬淵監督と明徳義塾の存在を否定するようなものだった。
馬淵監督が考える高知の県民性
馬淵監督は愛媛県西に浮かぶ八幡浜市大島の出身である。1987年から明徳義塾で指導するなかで、高知の県民性をこのように感じていたという。
「土佐は豪放磊落と言われるが、俺はそうは思わないよ。四国山地でさえぎられていることもあってか、排他的なところもある。瀬戸内(愛媛、香川)とはちょっと違うな。徳島も大阪に近いから、そっち寄りの文化があるしな」
四国の他県では中学トップクラスの有望株が県外に流出する現象が目立つが、高知県では馬淵監督によると「他のスポーツでは高校から高知を出ることが多いけど、野球では県内に留まることが多い」という。
素性を知らない人間より、幼い頃から知っている人間に情が湧くのは自然なことでもある。このように、高知では地元出身者を応援したくなる土壌が形成されている。
なぜ、明徳ばかり批判されるのか
しかし、程度の差こそあれど、県外から選手が入学してくるのは明徳義塾だけではない。明徳義塾ばかりが批判の対象になる理由は、「勝つから」と馬淵監督は見ている。
「いい悪いは抜きにして、公立でも県外からいっぱい来ているわけよ。四国で甲子園優勝したチームのなかには、中学3年からその県に転校したヤツだっていたんだから。そんなやり方をしてる学校があっても、何も言われん。私学にしても、土佐高校は大阪から選手が入っても何も言われん。ウチが勝つから言われるんだよ」(つづく)