二極化するロシア国民の声…フラード氏の知人も逮捕された

　フラード氏によると、ロシア国民の感情は二極化しているという。

「プーチンを擁護するロシア国民たちは、現実を見ることを否定し続けています。その一方で、努力して情報を手にして戦争反対を訴えるロシア国民も少なからずいます」

　だがそれには代償が伴う。フラード氏の知人も、サンクトペテルブルクで反戦デモに参加して警官に逮捕された。

「プラカードを持っていたわけでもなく、叫んでいたわけでもない。ただ平和的に行進するデモ隊と一緒に歩いていただけだったんです」

　そのロシア人の知人は、15日間も拘置所に拘束された。その事実をフラード氏がSNSに投稿すると、「あなたの友だちは法律を破ったから逮捕されたのは当たり前」というロシア語の書き込みがあったという。

「ロシアの憲法によると、国民は平和的に抗議デモを行う権利が保証されているはずなのです。でも明らかにその権利は侵害されています」

3月6日、サンクトペテルブルクのデモ行進で警官に取り押さえられる男性　©Getty Images

　3月4日にロシア議会は、「軍の虚偽情報を広める活動を行った個人に最大15年の懲役を科す」という法案を決議し、反戦活動の取り締まりを強化した。日本で一般的に使われている「情報統制」と言えばまだ聞こえは良いが、完全なる思想弾圧である。

「本当にわずかな期間でのこの変わりよう。恐ろしいと思いました」そう言うフラード氏は、「ウクライナに平和を。ロシアには自由を」と投稿をした。多くのロシア人から「ありがとう」と書きこみがあった半面、「自分たちはすでに自由だ」という抗議の書き込みもあったのだという。

なぜプルシェンコはプーチンを擁護？「私も混乱している」

　プルシェンコやナフカなど、フィギュアスケートの著名人たちの発言についてはどう見ているのだろうか。

「ナフカの夫は、プーチン政権の重鎮ですから、彼女の発言は驚きではありません。でもジェーニャ（プルシェンコ）については、私も混乱しています」

　スポーツ好きで知られるプーチン大統領は、大会のみならずモスクワ市内のスケート施設などに顔を出すこともあったという。ロシアのトップ選手たちは、現役の間は全てロシアスポーツ省から全面的な経済援助を受けており、そうした選手たちにとってプーチンは国家のトップとして親しみがあり、頼もしい存在であったであろうことは想像に難くない。長年自分たちを援助してきた人物に、忠義を感じていたのか。ナフカのアイスダンスパートナーだった、ロマン・コスタマロフも、「プーチンは最高の大統領」とメッセージを書きこんだ。

2016年のアメージング・オン・アイスに登場したプルシェンコ　©Getty Images

「中には本心でなくても、今プーチン政権を支持しておけば、恩恵が受けられると計算している人もいるかもしれません」とフラード氏。

「でもジェーニャは子供たちに対しても、動物に対しても分け隔てなく優しい人。彼がウクライナで一般人に対して行われている殺戮を知っているのなら、どういう形でも承認するとはどうしても考えられないんです」

　信じたくない、信じられない、現実を拒絶する、という防衛本能のなせるわざなのだろうか。妻も熱心なプーチン支持者であるプルシェンコは、大先輩であるヴィクトール・ペトレンコがキエフでロシア軍の爆撃から逃れるために、地下室にこもっていることを知っているのか。

「恐らく、知らないだろうと思います」

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