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“最高の相棒”藤井直伸(30)が胃がんステージ4を公表「聞いた時は、自分は固まってしまった。でも…」東レ・李博に響いた言葉とは
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byTORAY ARROWS
posted2022/03/08 11:02
サブに回る機会が増えたが、チームを懸命に鼓舞する李博(15番)。「ともに頑張っている」ことを伝えるために坊主頭でコートに立った
試合後には、藤井のためにパナソニックの選手たちが折った千羽鶴が、東レに贈られた。現在東レは3位でパナソニックは4位。前週の試合で連敗していたパナソニックにとって、この週末の東レ戦は負けられない試合だったが、コートの外では敵も味方もない。
藤井とともに東京五輪に出場したパナソニックのオポジット清水邦広はこう話した。
「選手だけでなく選手の家族も、いろんな人たちが、藤井にエールを送りたい一心で鶴を折りました。僕も怪我をしている間たくさん千羽鶴をもらいましたけど、自分たちで作ってみると大変なことなんだなと身にしみて感じました。病状的なことはわかりませんが、つらい治療をすると思いますので、少しでも自分たちがパワーを送れたら。男っていうこともあって、不器用だったり折り方がわからなかったりで、うまくできなかったんですけど、気持ちを込めて折っていますので、少しでも願いが届いたらいいなと思います」
大男たちが小さな折り紙相手に悪戦苦闘する姿が目に浮かぶ。以前、癌を患って治療した経験があるというパナソニックのティリ・ロラン監督も、選手に教わったり、YouTubeを見ながら思いを込めて折った。
清水によると、一番数多く折ったのはセッターの深津英臣だったという。深津は言う。
「藤井とは長年、良き仲間であり、良きライバルであり、コロナ前はよく一緒にご飯を食べにいったりしましたけど、本当に明るい性格なんです。ニュースを聞いた時はすごくショックだったし、『なんであいつが』と思いますけど、逆に『あいつなら奇跡を起こしてくれる』とも思える。あいつから元気がなくなったら、というのは考えられないので、あいつなら乗り越えてくれる、そう思っています」
日本代表の司令塔を争ったライバルにも、そう言わせてしまうのが藤井直伸だ。
そうした思いの詰まった千羽鶴は、パナソニックの山内晶大主将から、東レのミドルブロッカー李博に手渡された。
ミドル李と形成した唯一無二のコンビ
李は坊主頭でこの試合を迎えた。治療のため髪を剃った主将を思い、「藤井とともに頑張っている、というのを見せられたら」と言う。
李にとって藤井は唯一無二のセッターだ。
2人の高速コンビは2016-17シーズン、Vリーグを席巻した。藤井はアタックラインの後ろからでも臆することなく李のBクイックにトスを上げ、李は迷いなく踏み切って腕を振り、あっという間に相手コートに突き刺さる。その年、東レはリーグ優勝を果たし、その原動力となった2人は初めて日本代表に選出された。
国際大会でも2人の高速クイックは相手チームを翻弄し、代表にも定着。いつしか2人のコンビは愛着を込めて「ふじーりー」と呼ばれるようになった。