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羽生結弦の“かわらない”姿勢…北京五輪を現地取材の記者が目撃した気遣いと求心力《エキシビ練習後の「手伝い」は“特別”ではない》
posted2022/03/06 11:04
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Sunao Noto/JMPA
北京五輪が終わって時間を経ても、その余韻は消えない。羽生結弦の姿、その印象はむしろ強まるばかりだ。試合はむろんのこと、リンク内外のいくつもの情景が、人々の脳裏に焼きついている。
あらためて北京での羽生を思い返したとき、浮かんでくるのは「かわらない」という言葉だ。
例えば、2月20日に行なわれたエキシビションの前日19日の公式練習後。ボランティアの人々らに加わり、整氷作業を手伝う姿があった。傷の状態を確認してはバケツから氷を取り出して修復するのに熱を込めた。
それは今回の五輪に限った光景ではない。
周囲への感謝を行動で示す姿勢
筆者は以前、国内でリンク設営・管理などを担う「パティネレジャー」という会社で、設置作業を統括する責任者に話をうかがったことがある。その中で羽生について語られたのは、練習の前後で顔を合わせる機会があればいつも丁寧に挨拶をし、氷について分からないことがあれば、率直に尋ねてくる姿勢だった。また、製氷作業の担当者は、「(製氷作業を)手伝ってくれたりするんですよ」と明かしてくれた。北京で見せたエキシビションの公開練習後の「手伝い」は何ら特別ではなく、これまでも機会があればとってきた行動だったのだ。
北京での製氷作業のあと、笑顔でボランティアとの集合写真におさまった。それに限らず、ボランティアの人々など大会を支える人たちへのにこやかな表情、謝意を伝える姿が多く見られた。
周囲への感謝を示す姿勢もまた、これまでの大会とかわらない。例えば平昌五輪でも、ボランティアの人に労いの言葉をかける場面はたびたび見られた。
かわらない、ということは、それが一貫した姿勢、人としてのスタイルであることを意味する。付け焼刃でなく、自然なふるまいとして備わっていることを示している。