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武豊「何年もの間、夢に出てきてうなされた」 ディープインパクトの凱旋門賞“まさかの敗戦”を、騎手と調教師はどう語ったか?
text by
平松さとしSatoshi Hiramatsu
photograph byAFLO
posted2022/03/05 11:02
2006年、凱旋門賞挑戦時のディープインパクトと武豊
池江調教師「信念を持って調教をしている」
慣れない地で一つ間違えば雰囲気に吞まれそうな条件下でも、日本最強馬を管理する池江泰郎調教師(引退)の厩舎スタッフは冷静にいつも通りの仕事を全うした。日本のトレセンとは異なるシャンティイの森の中での調教だったため、愛馬を見失わないように担当の市川明彦厩務員はゼッケンを裏返しに装着。目立つ白い面が表面に押し出されるようにした。調教に騎乗する池江敏行調教助手もそのあたりを理解して「明るい色のジャンパーを着るようにした」と語った。
宝塚記念以来の休み明けになる点は、中間の追い切りをロンシャン競馬場まで行って行う事でカバーした。その鞍上には勿論、日本から駆けつけた武豊騎手が跨った。本馬場での調教後には同ジョッキーと池江泰郎調教師が声を揃えて「良い状態」「良いスクーリングが出来た」と口にした。そして指揮官は次のように続けた。
「若駒じゃないのでパドックとコースを見せられれば充分です。信念を持って調教をしているので、休み明けでも万全といえるデキにあります」
凱旋門賞前日のダニエル・ウィルデンシュタイン賞(GII)にはディープインパクトと同行して現地入りしていたピカレスクコートが出走。2着に善戦すると、同馬の調教師であり池江泰郎調教師の子息でもある池江泰寿調教師は次のように感じた。
「ピカレスクコートは日本だと1000万条件の馬です。それがフランスのGIIでこれだけ走れる。ディープインパクトもきっと好勝負になるでしょう」
まさかの敗戦「正直、負けないだろうと思っていた」
ところがご存知の通り厳しい現実が待っていた。この年は8頭立てで行われた世界最高峰のレース。日本では鋭い末脚で追い込むのが自分の形だったディープインパクトが、ヨーロッパの遅い流れのせいか、すんなりと先行した。そのまま道中は2~3番手を走って最後の直線に向く。ラスト300メートルを切って一瞬先頭に立とうかというシーンを演出したが、その外から地元の3歳馬レイルリンクにかわされると、ゴール直前では6歳牝馬のプライドにも差されてまさかの3位入線。更にレース後には検体から禁止薬物が検出され失格になってしまった(*この時検出されたイプラトロピウムという薬物は筋肉増強剤のような類ではなく、あくまでも風邪薬のようなモノだった)。武豊騎手は言う。
「池江先生を知っている人なら悪意を持ってそういう事をするような人ではないのは誰もが分かるはずです。ディープ自身、本当に調子が悪かったのでしょう。僕も正直、負けないだろうと思っていましたから……」