「負けないだろう」と思っていた気持ちは強がりでもなければ過信でもない。先述した通りこの年の出走馬はディープインパクトを含め8頭ではあったが、ディフェンディングチャンピオンのハリケーンランや、そのハリケーンランをサンクルー大賞（GI）で破ったプライド、前年のブリーダーズCターフ（GI）の覇者シロッコなど好メンバーが揃っていたのは事実。それでもディープインパクトの末脚を炸裂出来れば勝てると、経験豊富な日本のトップジョッキーは冷静に分析していたのだ。それだけにレース後は悔しい思いで頭が一杯になったと言う。

「ディープは間違いなく勝てる能力を持った馬でした。それなのに勝たせてあげられなかった。だから悔しかったのです」

まさかの3位入線（後に失格）となったディープインパクト　©AFLO

武豊「何年もの間、夢に出てきてうなされた」

　あれから何年もの間、「このシーンが夢に出てきてうなされた」と言う。一発勝負の競馬の怖さではあるが、不幸中の幸いだったのは、これが日本競馬史上最強馬にとって最後の敗戦だった事。帰国後初戦のジャパンC（GI）を快勝して名誉挽回をすると、ラストランとなった有馬記念も圧勝して前年惜敗した雪辱を果たしたのである。

　さて、そんな名馬の名が冠せられた弥生賞ディープインパクト記念（GII）が今週末の日曜日、中山競馬場の芝2000メートルを舞台に行われる。皐月賞のトライアルレースでもあるこのレースで今年、武豊騎手が手綱を取るのはドウデュース（牡3歳、栗東・友道康夫厩舎）。昨年の朝日杯フューチュリティS（GI）の覇者でJRA賞最優秀2歳牡馬に選定された馬だ。かつてディープインパクトを数々の栄冠にいざなった鞍上は果たしてどんな手綱捌きを見せてくれるだろう。

弥生賞ディープインパクト記念に出走予定の武豊とドウデュース　©Satoshi Hiramatsu

　皐月賞やダービーにつながるレースなのか、それとも秋の凱旋門賞に希望の灯が点る競馬をするのか。その走りに注目しよう。