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《センバツ名勝負》清原桑田のPL撃破“メガネの県立校エース”に告げられた右肘の余命「いずれ爆発すると言われていた」

posted2022/03/21 17:00

 
《センバツ名勝負》清原桑田のPL撃破“メガネの県立校エース”に告げられた右肘の余命「いずれ爆発すると言われていた」<Number Web> photograph by Katsuro Okazawa/AFLO

1985年センバツ準々決勝で、優勝候補のPL学園を破った伊野商業。エース渡辺智男が清原和博から3三振を奪った

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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Katsuro Okazawa/AFLO

高校野球史に残るジャイアントキリングはなぜ起こったか。怪物・清原和博を力で抑え、3三振に仕留めたエース。マウンドで感じたのは後の人生を左右するほどの恐怖だった。Sports Graphic Number923号(2017年3月16日発売)《[1985怪物たちのセンバツ]清原和博(PL学園)vs渡辺智男(伊野商)『怪物が覚醒させた怪物』》より ※全2回の前編/後編へ。肩書きなどは掲載時のまま

 準々決勝が終わった後、伊野商業高校監督・山中直人はエースの渡辺智男(とみお)を甲子園から車で20分ほどの治療院へ連れていった。翌日の準決勝はPL学園と戦うことになっていた。

 ここまで3試合を完投してきた渡辺の治療を済ませ、宿まで帰るタクシーの車中、山中は年配の運転手に話しかけた。

「運転手さん、高校野球の季節やけど甲子園は興味あります?」

「わし、高校野球大好きやで」

 後部座席で山中と渡辺は顔を見合わせた。

「そうですか。明日はどうなりますかね?」

 笑いをこらえながら、山中が聞いた。

「そうやね。わしはこっちの出身やけどPLはあまり好きじゃないんや。でもPLで決まりやろうね。相手のピッチャーもいいらしいけど、そりゃあ無理やで」

 車内が静まった。隣を見ると渡辺が仏頂面をつくっている。当時27歳の青年監督はあわてて相槌を打った。

「そうですよね……。力が違いますもんね」

 1年生の夏から4番、エースとして甲子園優勝を果たした清原和博と桑田真澄が3年生になり、PL学園は今大会でも絶対的な優勝候補だった。かたや四国大会2位で初出場を果たした伊野商は地元の選手だけの県立校。運転手だけではない。マスコミや大会関係者、ファン、そして当の山中でさえもPLの勝利を疑わなかった。

「監督、なんで入口まで行かなかったんです?」

 車が旅館に近づいてきた。宿の前には「高知県代表・伊野商野球部宿」と大きな看板が立っている。山中は運転手がその看板を見ると気まずいだろうと思い、随分手前でタクシーを降りた。すると渡辺がむっつりとしたまま食ってかかってきた。

「監督、なんで入口まで行かなかったんです? 行きゃあええんですよ」

 その表情を見た山中は宿に戻ると、自室でPL学園のビデオを見た。やれるだけのことはやっておこう。そんな心境になった。

「映像を見てわかったのは、清原くんと桑田くんが打つとPLは力を出すということ。逆にあの2人が打てない時は他のメンバーも乗ってこない。ところが、桑田くんの攻め所はわかったんですが、清原くんには穴がなかった。智男の内角ストレートを弾き返されたら、もう終わりだな、と」

【次ページ】 山中監督がエースだけに伝えたこと

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