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ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
27歳で戦力外「希望しかないんですよ」…元DeNA乙坂智が語る“メキシコ挑戦のウラ側”「振り返ってみると、それじゃ結果は出ないなって」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byShiro Miyake
posted2022/03/02 11:02
昨季に10年在籍した横浜DeNAベイスターズを退団し、今季からメキシカンリーグ・レッドデビルズでプレーする乙坂智
「一言でいえばシビアですよね。日本は契約期間があるのでシーズン途中に解雇ということはほとんどないですけど、メキシコは日払いというか日雇いみたいなシステムだったので、僕が行ったときも外国人野手が2試合打てないだけでリリースされたこともあり、やっぱり緊張感が違いました。一人ひとりがやることに集中しているし、本当に試合に勝つための集団というか」
苛烈でハングリーな生存競争。しかしそこにはラテンらしい寛容なノリもあった。
「ただギスギスしているわけではなく、チームメイトに対する思いやりや配慮というのは日本以上にありました。相手を大事にすることが自分を大事にすることに繋がるというか、人生をトータルで楽しもうって雰囲気がありましたね」
スペイン語がほとんどしゃべれなかった乙坂は、チームメイトのサポートを受けながら現地で試合に挑んだ。「じゃあ、きっと楽しい時間だったんでしょうね」と問うと、乙坂は首をひねった。
「打席とかでは、すごい気迫でピッチャーが向かってくるので熱いものはありましたけど、それ以外、楽しかった感覚っていうのは本当になかったんですよね(笑)。移動も多いし、食事もお腹一杯食べたって日はあまりない。本当カツカツで……。ただ、向こうの選手にとってはそれが当たり前のことなんですよね。僕は日本とメキシコの両方知ることができたのは大きな経験だったけど、その後、それを活かすことができなかった。だから次こそは、という思いはあります」
今オフを過ごして「人よりも気がつくのが遅い(笑)」
まだ戦いは始まってはいないが、新天地でやっていける自信はあるのだろうか。
「もちろん、あります」
乙坂は、力強くうなずく。
「毎年、オフは関西のほうでトレーニングしているのですが、今回はいつもとは違ういい感覚を掴むことができたんです。やっていることはこれまでとあまり変わりないのですが、ひとつひとつの身体操作を深いところで理解できるようになっている。今までの自分を振り返ってみると、それじゃ結果は出ないなっていうのも理解できました。
多くの人が『もっと早くベイスターズ時代に気づけよ!』って思っているとは思うんですが、僕は人よりも気がつくのが遅い(苦笑)。時間は掛かりましたが、今取り組んでいることを実戦で活かすことができたら面白いことになるんじゃないかって思っているんです」
瞳がまるで野球少年のように輝いている。乙坂から「早く野球がしたい」という気持ちがあふれ出ていた。
「ちょっと面白いなって思ってくれる人がいたら」
異国の地に身を置き、先行きのわからない道へと歩み出す。果たして乙坂は、どんな未来を頭の中で描いているのだろうか。