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ワリエワのエテリコーチと真逆?「勝ち負けではなく子どもたちの幸せを」北京五輪メダル1位ノルウェーの“嫉妬と無縁な育成”とは
text by
フローラン・ダバディFlorent Dabadie
photograph byGetty Images
posted2022/02/24 17:00
北京五輪最多メダルとなったノルウェー。世界中が騒然となったフィギュアのROCエテリコーチとは対照的な育成方法だという
「我々の育成は勝ち負けではなく、子どもたちの幸せを大切にしています」
こう強調するのは、北京五輪のアルペンスキー大回転の代表となった21歳のアトレリー・マグラス。マグラスは、スキーに専念するまでにたくさんのスポーツを経験し、焦ることなく成長してきました。
「ノルウェーでは、13歳まで全国大会はなく、ナショナル・ランキングも存在しません。早すぎる競争は子どものメンタルや親の態度に悪い影響を与えると考えられています」
「そもそも高い競争心と強い向上心は、誰もが……」
ゆとり教育とは少し違います。「そもそも高い競争心と強い向上心は、誰もが持っています」とマグラス。ジュニア年代には、日本のような全国規模の真剣勝負の場はありませんが、指導者のレベルが極めて高いのだそうです。ゆえに、子どもたちの原動力はただ単に上手くなりたいという、自然のモチベーションなんです。
そんなノルウェーの成功の秘訣を知って感動しました。
一方、カミラ・ワリエワらを指導し、ロシアのフィギュアスケートを牽引してきたコーチ、エテリ・トゥトベリーゼは、競争という名の下で指導する選手たちを追い詰め、18歳未満という若さであっても全盛期を過ぎたと見れば切り捨てる……。ただこれはロシアだけの、フィギュアスケート界だけの問題とは言い切れないかもしれません。
アメリカや欧州のスポーツ界にも、スパルタな育成法のせいでケガや燃え尽き症候群を経験し、早すぎる引退を決断した才能が大勢います。
根性論で鍛えるか、それとも遊び心を引き出すか
根性論を子どもたちの心に訴える国々と、子どもたちの技術への好奇心を刺激し、遊び心を引き出すノルウェー。後者のアプローチがひとつの成功を収めているのは間違いありません。
当然、その影響で、ノルウェーでは代表選手同士の嫉妬や過剰なライバル意識が生まれにくいと聞きます。こうした育成環境から、言動でチームメートを引っ張ることができる真のリーダーが誕生するのも納得です。バイアスロンの選手として20年間にわたりオリンピック6大会に参戦し、8個のゴールドメダルを国に持ち帰ったオーレ・アイナル・ビョールンダーレンのようなリーダーが。
小国ノルウェーのサクセス・ストーリーについて、ライバルであるアメリカ代表の関係者もこんなことを言っていました。