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「私たちの父は違った」なぜ未経験者がウィリアムズ姉妹を育てられたのか?…映画『ドリームプラン』が描く“テニス界の毒親問題” 

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山口奈緒美

山口奈緒美Naomi Yamaguchi

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photograph byGetty Images

posted2022/02/23 17:01

「私たちの父は違った」なぜ未経験者がウィリアムズ姉妹を育てられたのか?…映画『ドリームプラン』が描く“テニス界の毒親問題”<Number Web> photograph by Getty Images

独学でビーナス&セリーナの最強姉妹を育て上げた父・リチャード。その奇跡を描いた映画『ドリームプラン』が全国で公開される

女子選手に若年化問題にある“毒親の存在”

 このサクセスストーリーの中には、「テニス未経験の父がどのように娘2人をチャンピオンに育てたのか」というメソッドと同時に、「なぜ姉妹はこれほど息の長いキャリアを実現することができたのか」という秘密も隠されている。

 女子テニスは、ウィリアムズ姉妹以前も以後も、短命に終わった天才少女を何人も見てきた。中でも衝撃的だったのはジェニファー・カプリアティだ。12歳のときに全仏オープン・ジュニアと全米オープン・ジュニアを制し、14歳の誕生日直前のプロデビューでいきなりツアー準優勝。15歳でウィンブルドンと全米オープンのベスト4に進出し、16歳でバルセロナ五輪の金メダルを獲得した超天才少女がマリファナ所持で逮捕されたのは、まさにビーナスのプロデビューの数ヶ月前だった。カプリアティはのちに再起し、20代半ばで3つのグランドスラムを手にするが、 いわゆる<燃え尽き症候群>の象徴として語られる。

 カプリアティ逮捕の3年後の1997年に、当時16歳でグランドスラム全ての決勝に進出し、全仏以外の3つを制したマルティナ・ヒンギスも、事情は違うものの最初の引退は22歳とまだ若かった。

 女子選手の若年化に伴う問題の中には、親の極度の介入や暴力・暴言というものも存在した。 エレナ・ドキッチの父ダミル、マリー・ピエルスの父ジム、ミリヤナ・ルチッチの父マリンコなどは代表的な“毒父”で、皆WTAから試合会場への出入りが禁止になった。そのストレスの中で精神を病み、長いスランプやツアー離脱に陥った選手も少なくない。

セリーナも証言する「私たちの父は違った」

 セリーナは最近、「スポーツ、特にテニスには子供を自分の思い通りにしようとする高圧的な父親がいるけれど、私たちの父は違った。世間は間違った見方をしていたでしょうけど。私たちは、テニスコートでは何も無理強いされずに育った。この映画でそれを知ってもらえるんじゃないかしら」と語っている。

 “キング”は6年ほど前に病に倒れ、再々婚した妻も離れていくなど、耳に入る現状は何もかも切ないが、背景を知っていても知らなくても、映画は誰の胸にも刺さるに違いない。 

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