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15歳ワリエワは加害者でもあり被害者でもある…ドーピング違反で9年後にメダリストになった選手の“涙の告白”「あの時間はもう戻ってこない」 

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及川彩子

及川彩子Ayako Oikawa

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photograph byJIJI PRESS

posted2022/02/20 11:05

15歳ワリエワは加害者でもあり被害者でもある…ドーピング違反で9年後にメダリストになった選手の“涙の告白”「あの時間はもう戻ってこない」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

ドーピング違反の疑いがある状態で北京五輪フィギュア女子シングルに臨んだ金メダル候補のカミラ・ワリエワだったが、まさかの4位で初の五輪を終えた

 北京五輪、陸上男子1600mリレーで3位に入ったロシアがドーピングで処分され、4位の英国チームが銅メダルに繰り上がった。カイナード同様、彼らがメダルを手にしたのは北京から9年後の2017年だった。ロンドン世界陸上の場で銅メダルを受け取った英国選手たち。観客の前でこそ笑顔だったが、4位で終わった時の心境を聞くと肩を震わせて涙を流した。

「4位で悔しくて悔しくて。レース後に泣いたのを覚えている。(9年後でも)メダルをもらえたことはうれしいけれど、あの時間はもう戻ってこない。北京のスタジアムで表彰されたかった」(3走のビンガム)

「自分はまだマシな方だ。その後に世界陸上でメダルをとって、メダリストとして扱われた。でも北京の後に引退した仲間はその栄誉を受けることさえできなかった。4人でメダルをかけて色んなところに表敬に行きたかった。それがとても悔しい」(4走のルーニー)

 本来ならば彼らが受け取ることができたはずの多くのものは、返ってこない。

 ドーピング問題は対戦した選手、関係者、家族などに、経済的、そして心理面でも影響を及ぼす。

スポーツをするアスリートの義務であり責任

 ワリエワは陽性が出た時点で処分されるべきだった。

 CAS(スポーツ仲裁裁判所)は「16歳未満で保護対象」「出場させないことが取り返しのつかない傷になる」という曖昧な理由で、ドーピング検査で陽性になったワリエワの出場を認めた。CASは「irreparable harm(取り返しのつかない傷)」という言葉を使ったが、結果的には出場したことが彼女の傷になったとしか思えず、彼らの判断ミスとしか言いようがない。

 ワリエワのフリーの後に彼女の幼い頃のスケート動画を見た。今の彼女に通じる、流れるようなスケーティングや柔軟性が8歳頃にはすでに習得されていた。ロシアでも類稀な才能を持ったスケーターだったのだろう。それに加え、エテリ・トゥトベリーゼコーチの下で4回転ジャンプという武器を身につけた。前途は明るかった。

 しかし検体から禁止薬物が検出された今、残念ながら彼女のパフォーマンスはドーピングによって作られたものに見えてしまう。彼女が自ら薬物を口に入れたなら、最終責任は本人にある。それがスポーツをするアスリートの義務で責任だから。

【次ページ】 15歳ワリエワも大人に振り回された被害者である

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