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「羽生は“川の流れ”のよう」「鍵山なら5回転も跳べる」元フィギュア金メダリスト、ボイタノが熱弁する日本勢のスゴさと可能性
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAFLO
posted2022/02/05 11:04
1988年カルガリー五輪王者のブライアン・ボイタノ。引退後には自身の料理番組を持っていたほどの人気者だ
ボイタノ「3アクセルは40歳まで跳んでいました」
かつてのライバルだったオーサーはコーチとして、多くの選手を育ててきた。だがボイタノ自身は、自分はコーチに向いていない、という。
「これまでにトップスケーターのメンターになったことはあります。ぼくは子供たちを最初から指導するようなコーチには向いていないのですが、細かいチューニングなら得意です。例えばジャンプが不調になった選手の技術を、ほんの少し変えるだけで結果を大きく変えることができます。自ら宣伝しては歩かないけれど、依頼が来ればどこの国の選手であろうと手を貸す意志はあります。世の中のすべての選手に、本人に可能なベストな状態になって欲しいと思っているので」
そう言うボイタノは、以前にパフォーマーは永遠にパフォーマーであり続ける、と言ったことがある。58歳になった今でも、その心は変わっていない。
「今でも美しい音楽を聴くと、心の中で滑っています。今でも週に2度くらいは、エクササイズのためにリンクに行きます。ただもう体が痛くてジャンプはできません。ぼくはジャンパーとして知られていたので、とても残念。3アクセルは40歳まで跳んでいました。でもそのために、膝を痛めたのだと思います」
オリンピック選手たちへのアドバイス
いよいよ北京オリンピックが開催されるが、選手たちに何かアドバイスはあるだろうか。そう聞くと、ボイタノは迷わずにこう答えた。
「今その瞬間を大事に、ということです。周りに色々起きていると、自分のやっていることに集中するのは難しい。でも大事なのは、今のその瞬間だけ。目の前にある一瞬一瞬を大事にすれば、常にやるべきことと気持ちが共にある。それが積み重なって、いつでも正しいことができる。これがチャンピオンになるための秘密だと思っています」
選手たちはよく、「勝ちたいという欲が出た」ことを失敗の理由にあげる。ボイタノが言っているのは、まさにそのことなのだろう。
「北京ではネイサンが金メダルの最有力候補ですが、ハニュウにはもちろん3連勝するに十分な能力がある。ネイサンは最高の演技をする必要があることは、わかっているでしょう。本人はこれまでの成績に胡坐をかくような人間ではないし、他の選手たちのことをとても尊敬しているので常に謙虚です。でも彼ら以外でも、トップの選手たちの間では誰が勝ってもおかしくありません。その日にベストな演技をした選手が勝つでしょう」
カルガリー五輪王者はそう言葉を結んだ。北京で王座につくのは、果たして誰になるだろうか。
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