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本番2カ月前に全プログラムを変更…荒川静香が明かす“トリノ金メダル秘話”「エリート街道を行ったわけではない私が…」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2022/02/17 11:02
16年前のトリノ五輪で日本フィギュア勢初の金メダリストとなった荒川静香
「コールされてスタート地点に立ったとき、よかったときもそうじゃなかったときも応援してくださった方々に、自分が頑張っている姿を見ていただくことで少しでも恩返ししたいという思いでした。実はどんなことを感じて滑り始めるか、滑り終えるかはあらかじめ決めていました。そうじゃないと集中すべきことから頭が離れてしまうのではないか、よけいなことがよぎってしまうのではないかと思ったからです」
周到な準備、イナバウアーに象徴されるこだわり。美しくも完璧な演技で暫定1位につけると、後続の選手に抜かれることなく、残り1名を待つばかりとなった。
「メダルは確定していたので、それに対してはうれしい気持ちがありました。ただ、金メダルを獲るであろう選手(イリーナ・スルツカヤ)が最後の滑走でしたから、色が金になるとは思わずにいました。ですから金メダルが決まったときは信じられない気持ちと驚きがありました。最後まで何が起こるか分からないのがオリンピックだと感じた瞬間でした」
「あの人にできるなら私にもできるという希望になれた」
あれから13年が経った。
「幼少期からエリート街道を行ったわけではない私が達成できたことで、多くの若手に、あの人にできるなら私にもできるんじゃないかという希望になったんじゃないかと思います。('10年の)バンクーバー以降のオリンピックを見てきても、いいロールモデルが続いてきたと感じています。さまざまな選手が世界のトップで戦うすばらしさを次世代に伝え、今では日本人が世界のトップで戦うのが当たり前になっている。こういう時代は想像できなかったですね」
「やりきる」という決意を最後まで貫き、成し遂げたアジア選手初の金メダルという快挙。それは日本フィギュアスケート界に希望を与えた瞬間であり、今日の隆盛へ導く大きな足跡だった。